最新記事

台湾半導体

「敗者の日本」に学ぶ、台湾半導体の過当競争からの「出口戦略」とは?

LESSONS FROM JAPAN

2022年12月2日(金)15時14分
ゲイリー・シェ、ソフィー・グラント(ともに北京大学の客員研究員)


今の台湾がまさにそうだ。半導体業界の競争が熾烈で、企業は利益が減少し、イノベーションよりも価格競争に走る。これは短期的には台湾に有利に働く。安い製品のほうが売れるからだ。だが長期的には、エレクトロニクス分野では特に、企業が技術開発に投資するだけのインセンティブが不可欠だ。

半導体業界の競争は激化している。中国はIC(半導体集積回路)産業発展推進戦略の下、国内の半導体業界に1兆4000億ドルを投じ、2035年までにクローズドループ型の半導体価値連鎖の実現を目指す。

韓国は半導体研究に8億7000万ドルを投資する計画だ。EUはマイクロエレクトロニクス支援計画で17億5000万ユーロの拠出を約束。

アメリカは今年8月に成立したCHIPS法に基づき、半導体業界に数百億ドル規模の投資をする構えだ。

こうした状況では、台湾の現在のモデルは時代遅れになりかねない。半導体のような資本集約型・イノベーション主導型の部門では、長期的なメリットを維持するには研究資金が不可欠だ。

台湾の行くべき道は2つに1つ。1つは世界の半導体製造の他の主要国や地域に倣い、大規模な政府助成金・補助金でイノベーションを促進する道だ。

台湾は70年代にこの道を選んだ。政府は政府系研究機関である工業技術研究院を通じて研究資金を直接提供、技術をTSMCなどの企業に波及させた。だが、もうこの方法で中国やアメリカやEUなどはるかに大規模な国や地域に対抗するのは難しいだろう。

もう1つは、戦後日本の「過当競争」への取り組みを教訓に垂直統合強化を推進する道だ。台湾の半導体業界にはイノベーション推進に必要な中小企業が多い。台湾政府はこれらの企業に戦略的連携やコンソーシアム(共同事業体)で利益を増やし、それを研究に回して長期成長を可能にすることを奨励するべきだ。

短期的な「過当競争」で価格を下げ、長期的なイノベーションで成長を推進──。台湾は戦後日本の過当競争の概念に学び、半導体業界を再編してイノベーションを促すべきだ。

From thediplomat.com

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中