最新記事
軍艦島

軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも劣悪な労働環境でストライキ頻発、殺人事件も...

2025年1月24日(金)11時40分
風来堂(編集プロダクション)*PRESIDENT Onlineからの転載

ドラマでは、戦後のストライキの様子もかなりリアルに再現

端島は三菱鉱業が所有する島だった。戦前はかなり劣悪な労働環境で、労使間で暴動や自然発生的サボタージュ、ストライキなどが頻発していたという。

WEBサイト「軍艦島の真実」にある端島に関する年表によると、1897(明治30)年4月には炭鉱夫約3000人による11日間にわたる大規模なストライキが起きたという。

納屋頭2人が殺害され、警官40人以上が出動したというものだった。


しかし、太平洋戦争後の1946(昭和21)年に端島にも労働組合が設立され、労働条件が向上。8時間勤務の1日3交代制が実現した。

また、国の石炭増産政策などにより、労働者の数とともに島の人口も増加し、生活環境の改善も図られていった。

1950年代に入ると、三井三池争議に象徴されるように日本各地で労働争議が激しくなる。第5話で描かれたように、端島にもその波がやってくる。

「軍艦島の真実」によると、1956(昭和31)年に労働組合がストライキを起こしたことに対し、会社側はロックアウト(労働者の職場からの締め出し)を実施した。

WEBサイト「軍艦島デジタルミュージアム」に掲載されている、当時端島や高島で働いていた松浦さんの講演記事には、当時の労働争議のリアルな話が載っている。

近くにあった三菱の高島炭鉱では組合側の力が強く、1958(昭和33)年に起きた労働争議はかなり激化した。

しかし、端島が加わっていた全炭鉱組合は、比較的会社側に協力的だった。「一山一家」という家族主義的コミュニティを築いていたことも影響していたのかもしれない。

端島炭鉱では、三菱側も「労使問題のない三菱」のイメージを打ち出してなるべく労使の争いを穏便にすませたいという思惑もあり、激しい労働争議の話は表立って出てこない。

炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍という好待遇

端島では鉱員の暮らしぶりは悪くはなかったようで、そのことも労働争議が激しくならなかった要因のひとつだろう。

家賃はかからず、水道光熱費は1959(昭和34)年時点で10円程度だった。当時の国内の6畳1間共同トイレ風呂なしのアパートの家賃が平均3000円だったので、かなり恵まれていたといえる。

1972(昭和47)年当時でみると、新卒の月給が5~6万円程度だったのに対し、端島では月約20万円を受け取っていたのだ。収入を見ても、生活環境を見ても、かなり好待遇だったといえるのではないだろうか。

島内のアパートには部屋ごとにかまどがあったが、それもやがてプロパンガスが使われるようになり、プロパンガスは2個まで無料で配布された。

電化が進むと、国内ではまだ一般家庭にテレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫の三種の神器が広まっていなかった時期に、端島では普及率がほぼ100%だったという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中