最新記事

環境

コトラー流「環境問題解決のための」ソーシャル・マーケティング手法とは?

2019年11月28日(木)16時30分
松野 弘(経営学者、現代社会総合研究所所長)

CBSM手法の基本的な特長は、ローカルな環境問題の障害(barriers)を抽出し、それらを解決することによって獲得される便益(benefits)を客観的な事実によって明らかにし、こうした解決手法の公益性を地域住民に理解させ、実践させることで成果を挙げてきたことである。

マッケンジー=モーアのCBSMは社会科学、とりわけ、社会心理学や環境心理学から、行動変革をもたらすような「ツール」(手段)を用いて人々に行動変革を実践させる。このCBSM手法には、次の5つのステップがある(同書第1章)。

1. ターゲット(標的)とすべき行動を選択する。
2. 選択された行動への「障害」(barriers)、および、「便益」(benefits)を識別する。
3. 行動への「障害」を減らし、行動の「便益」が目に見える形で自然と増えてくるような戦略を構築する。
4. 3の戦略を実施する。
5. その戦略が実施されたらすぐに、広範囲な実施、および、継続的評価の査定を行う。

環境問題の解決のために必要とされる各利害関係者の行動変革という目標達成段階に到達していくためには、次の3つの情報、すなわち、

(1)その行動にはどれほどの「インパクト性」(影響力性)があるのか(impactful)
(2)その行動の「浸透性」(penetration)のレベルがすでにどのくらいあるのか
(3)その行動をまだ行っていない人々がそれを選択する「確率性」はどのくらいあるのか(probable)

が必要とされている。

こうしたCBSM手法はどのように、社会的課題(同書では、環境問題)に対して適用されるのだろうか。

例えば、家庭部門の「廃棄物の減少」に対しては、廃棄物の減少を促進させるターゲット対象(一般市民)にとって、廃棄物の減少のための行動を抑止させる要因を「障害」として捉え、それを取り除いていくための方策、さらに、廃棄物の減少を促進することによってターゲット対象が獲得する「便益」について、パイロットテスト(本調査前の予備調査)を通じて明確化し、廃棄物の減少につなげていく。

さらに、こうしたCBSM手法は国家・地方・コミュニティの各段階に対応した内容で展開すべきであるとしている。同書では、CBSM手法が前述の環境問題の6つの課題について、先進国や開発途上国の各国で展開されている事例が詳細に示されている。

また、最終章(第13章 総括と戦略的提案)では、現代のソーシャルメディアや新しい技術革新がCBSM手法の量的・質的な向上を促進し、環境問題の解決へ大きな役割を果たしていくことが期待されている。

日本でもプラスチックごみや廃棄物処理の問題が、喫緊の政策課題として広く社会的な論議の対象となっている現状を鑑みると、同書における環境保護に対するさまざまな解決手法は今後、わが国の環境問題の解決のための方策を提示してくれるものと思われる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、来週訪米 トランプ氏とガザ・イラン

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中