最新記事

テクノロジー

人類滅亡後もデータを残せ

2015年8月7日(金)17時24分
ベッツィー・アイザックソン

 難点はコストだ。石英ガラス製の5インチ(約12・7センチ)ディスクはおよそ500ドル。ディスクにデータを記録する超高速レーザーは10万ドルもする。カザンスキーによると、「大量生産ベースに乗れば、10分の1か、100分の1まで」コストダウンできるという。

 公文書館や博物館、図書館、さらには大量のデータを扱う民間機関などに需要があると、カザンスキーはみている。「ハードドライブは比較的寿命が短いので、5~10年ごとにデータを移す必要がある」

 それに比べ、石英ガラスに記録した聖書のコピーは「人類滅亡後も残る」という。
日本の日立製作所も石英ガラスにデータを記録する独自技術を開発中だ。これまでのテストで3億年の保存に耐え得る性能を実証できた。

 ただし、石英ガラスのストレージは記憶容量が限られている。サザンプトン大学チームと日立の石英ガラスの記録密度は、いずれも最高で1平方インチ当たり40メガバイト。これはCDの記録密度35メガバイトを上回るが、標準的なハードディスク(最高で1テラバイト)には程遠い。

 この問題の解決に役立ちそうなのが私たちの細胞内にあるDNAだ。DNAを構成する4つの塩基、A(アデニン)G(グアニン)C(シトシン)T(チミン)は配列によって英語や中国語、さらにはプログラミング言語を表す文字の役割もする。

 遺伝暗号がぎっしり詰まったDNAの記憶容量は1グラム当たり700テラバイト。従来のあらゆる記憶媒体を圧倒する数字だ。

 生きた細胞組織を使って作品をつくるバイオ・アーティストのジョー・デービスは、あるリンゴの栽培に取り組んでいる。英語版ウィキペディアの膨大な情報を塩基配列に置き換え、合成生物学の技術を使ってリンゴのDNAに組み込むのだ。

 DNAの分子コードにデータを記録する技術を開発したハーバード大学医学大学院の遺伝学教授ジョージ・チャーチは、自著の原稿を、ピリオドより小さな1粒大の合成DNAに記録。700億冊分の複製が親指大の大きさに収まった。理想的な環境で70万年、保存できるという。ちなみに、グーテンベルクが活版印刷を使って世界で初めて聖書を印刷したのは560年前だ。

解読技術も一緒に保存

 もっとも、実用化はかなり先の話だ。現在のDNAシークエンシング(塩基配列の自動解読技術)では、1日に読み取れる情報量は12・5ギガバイト。映像フィルム16時間分だが、パソコンで映画を1本ダウンロードする時間を考えたら遅くて気が遠くなる。さらに、データの記録と読み取りには高度な装置が必要で、特別な研究室でしか扱えない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪経済見通し、現時点でバランス取れている=中銀総裁

ワールド

原油先物横ばい、前日の上昇維持 ロシア製油所攻撃受

ワールド

クックFRB理事の解任認めず、米控訴裁が地裁判断支

ワールド

スウェーデン防衛費、対GDP比2.8%に拡大へ 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中