Picture Power

不法移民から没収された大量の私物は何を語る

LESS THAN HUMAN

Photographs by THOMAS KIEFER

不法移民から没収された大量の私物は何を語る

LESS THAN HUMAN

Photographs by THOMAS KIEFER

拘束された不法入国者から没収されたベルト。強制送還の際は、ベルトのいらないズボンと靴ひものない靴を身に着ける

 この「アメリカンドリーム・プロジェクト」で私が撮った写真には、合理的な説明を拒否して心をかき乱す何かがある。なぜこれらは捨てられたのか?

 03年7月~14年8月に米税関・国境取締局で清掃員として働いた私は、大量の食べ物や衣類、私物が捨てられているのを目にし、ひどく困惑した。どれも不法移民が本国に送還される前に捨てられたものだ。そのうち食べ物はフードバンクへ寄付したが、積もり積もって総量は60トンに達した。

 身の回りの品々に対しては、食べ物の場合とは違う思いを抱いた。なぜロザリオ(十字架の付いた数珠)や聖書が捨てられた? なぜ財布が? 靴が? どう見ても新品のものが、なぜゴミ箱に放り込まれるのか?

 アメリカ独立から239年。建国の理想はかつてないほど批判にさらされている。希望や公正、民主主義、平等、信仰、神の愛は、一部の人々だけが手にする建前のように感じられるようになった。

 他者をどう扱うかは、私たちが何者であるかの表れだ。ベルトや靴、歯ブラシ、下着、時計、聖書、財布、携帯電話、鍵、宝飾品、水、食べ物、せっけん、薬、経口避妊薬、毛布、ロザリオが不要物として捨てられるとき、その数や出所にかかわらず、不法入国者たちは人間以下の扱いを受けたことになる。

トーマス・キーファー


Photographs by Thomas Kiefer-Institute

<本誌2015年11月3日号掲載>



【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 2
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 3
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新研究が示す新事実
  • 4
    無抵抗なウクライナ市民を「攻撃の練習台」にする「…
  • 5
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 9
    ジンベエザメを仕留めるシャチの「高度で知的」な戦…
  • 10
    ティラノサウルス科の初記録も!獣脚類の歯が明かす…
  • 1
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 2
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 3
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中