コラム

なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異なる「共存」と、AIが処理できない「無」

2026年03月07日(土)11時50分

① 「崇高」と「ありがたし」

巨大な自然や神業のような自分を超える存在に触れたときに生じる畏怖(いふ)の念と「自分はちっぽけだ」という感覚。この「崇高(awe)」の感情、崇高体験は自己中心性を弱め、他者への思いやりや社会的つながりを強めることが心理学的に示されている。この感情は、他者への優しさや社会的繋がりを強める効果があることが科学的に証明されている。

現在、福祉施設や公共空間において、映像表現を用いてこの感情を喚起し、人と人との距離を自然に縮める試みが進められている。

② 「余白・空白」の力

もう一つが「余白・沈黙」である。無音・無地の芸術作品に象徴されるように、情報が欠けているからこそ、人は想像し、意味を生み出す。これは人間に固有の精神活動であり、データで埋め尽くすAIとの本質的な差異とも関係する可能性がある。AIは「データの無い部分」を処理できないが、人間は「欠損」しているからこそ、想像力でそれを補い、深い感動(情動)を生み出すことができる。この「あえて見せない(演じきらない)」美学こそが、AI時代における人間の創造性の根幹であり、産業における差別化の鍵となると、石津氏は説く。無音や空白に美を感じるときの脳活動を測る研究も進行中だという。

石津氏は最後に、日本的美は過去の遺産ではなく、人間理解や社会設計、産業にまでつながる生きた資源であると強調した。神経美学は、その価値を主観論に留めず、測定可能な知として可視化する手段になりうる。SIGを通じて、その輪郭をさらに深めていきたいと締めくくった。

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美意識は鍛えられるか

株式会社HOSOO髙松秀徒氏は、平安時代の色彩を研究・復元する「古代染色研究所」での活動を通じ、数値化できない日本の伝統的な美意識と、それがもたらす現代感性への影響について、職人ならではの等身大の視点で語った。同研究所は植物染料による染色を研究・実践している。

自身は職人の家系ではなく、後天的にこの世界に入った立場だ。その変遷を経て知り得た実感こそが議論の出発点となっている。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

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