コラム

15%で合意、米EU関税交渉を読み解く──日米合意との比較、欧州ならではの事情

2025年07月28日(月)13時05分

EUにとっては、エネルギーの依存先の多角化を進めている最中であり、同時にエネルギーのグリーン化を進め、環境保護に厳しい姿勢をとっているので、のむのは難しい要求であった。しかし、エネルギー関連の交渉の進捗状況は、報道で漏れ聞こえることが大変少なかったので、もしかしたら重要なディールの話し合いをしているのではないかと思わせたが、やはりそうだった。


デジタルで「核オプション」の報復の検討

他の項目のことも書いておこう。

鉄鋼・アルミニウムについては、EUは米国と「クラブ」のような連携を組み、中国の過剰生産能力に対抗する方針であった。合意の日、トランプ大統領は50%の関税は維持されると述べたと報道されているが、フォンデアライエン委員長は、関税はカットされ、割当が導入されるだろうと記者会見で言っている。

航空機(民間・軍事両分野を含む全バリューチェーン)は、ホワイトハウスは関税の相互撤廃に前向きであると説明されていたが、やはり関税は撤廃されることになった。

医薬品については、15%の関税が適用されるようになったが、一部のジェネリック医薬品は関税ゼロのままである。27日にトランプ大統領は、フォンデアライエン氏との会談に先立ち、医薬品は「非常に特殊」であり、米国で製造されるべきだと述べた。一方で、米国は欧州から「大量の医薬品」を輸入し続ける可能性が高いと認めた。

デジタルサービス税については、EUは現在準備中のものについて撤回に応じる用意があった。実は、EU米間のサービス貿易(米デジタル大手企業が欧州で得た利益が含まれている)では、EUの赤字なのだ。2023年には米国へ3190億ユーロを輸出、4270億ユーロを輸入した結果、EUは1090億ユーロの赤字を抱えた。

記者会見では特に言及されていなかったので撤回したのだろう。ただ、もし8月1日までに合意に至らなければ、EU側では、3番目の報復計画として、米国のデジタルおよび金融サービスに対する報復措置を検討していたことを付け加えておく。

これは「反報復措置」と呼ばれる強力な貿易ツールで、「核オプション」と呼ばれることがある。元々は中国の不公正な貿易慣行に対抗するために考案されたもので、特定の投資や公共調達、ライセンスなどへのアクセスを阻止することが可能となるが、米国に発動されることはなく終わった。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-イラン、インド船籍ガスタンカー

ワールド

イラン新指導者、負傷で姿見せない公算 外見損傷か=

ワールド

キューバ、米と協議開始 石油封鎖の影響深刻化

ビジネス

米個人消費1月堅調、PCE価格指数前年比2.8%上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 8
    北極海で見つかった「400年近く生きる生物」がSNSで…
  • 9
    謎すぎる...戦争嫌いのMAGAがなぜイラン攻撃を支持す…
  • 10
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story