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CRE(企業不動産)戦略は「実行の予定なし」が大多数の日本企業

2015年01月29日(木)14時00分

専門部署がある企業はわずか16%。スペシャリストが求められるが

 CRE(企業不動産)戦略の重要性は、固定資産の評価を反映させる減損会計の適用といった背景や国土交通省の後押しもあって、近年各所で指摘されている。企業が所有するあらゆる不動産を、単に物理的な生産財としてだけではなく、経営戦略の視点から効率的に資産活用して、企業価値そのものの向上に繋ぐというのがCRE戦略の概念だ。

 だが、こうした啓発活動や一部の先行事例の影で、日本企業においてCRE戦略の実施が進んでいない実態も明らかになってきた。法人向け不動産サービス大手の三菱地所リアルエステートサービス株式会社が従業員100人以上の企業の経営層300人を対象に2014年9月に実施した「経営層と企業不動産に関する調査」によれば、「CRE戦略の実行の予定はない」あるいは「わからない」とした経営者が75.3%に上るという。また、「予定はない」とした経営者の理由は「必要だと思っていない」が60%で第1位になっている。あえて所有しないという判断も含めて、一定規模以上のほとんどの企業にとって、本来CRE戦略は必要不可欠だが、調査の結果は、その認知自体が未だ限定的であることを示している。

 では、CRE戦略に取り組んでいる、あるいは、取り組もうとしている企業経営者の実施理由はどこにあるのか。同調査によれば、54.1%が「経営指標(ROA)を改善するため」と答えている。これは企業会計基準における時価開示の流れを背景としたもので、CREの時価と利回りを強く意識する経営が目指されていることを物語っている。

 CRE戦略の先進国であるアメリカでは、企業内ないしはグループ内に専門の管理部署が設置され、専門職が担当することが少なくないという。日本企業ではどうか。前出の調査では、専門部署がある企業は16%にとどまり、47%が「他部署と兼任している」と答えている。ここでもやはり、出遅れ感があることは否めず、経営戦略の重要なピースという認識がまだ希薄であることもうかがえる。

 もちろん日本企業でも大企業を中心に、CRE戦略を含めた資産管理を連結子会社に一括する組織再編を行うなど、グループ全体を巻き込むガバナンスのレベルでの取り組みが報告されてきている。また、証券化やIT活用などのテクニカルな要素やCSRとの連携なども絡んでくるため、「兼任」で務めるには限界があるだろう。CRE戦略に特化した知見や職能を備えたスペシャリストが求められるが、それらを集めた専門部署を設置するほど、十分な人材が労働市場に存在しないという現状もうかがえる。

 CRE戦略の分野でアドバンテージを取ることは、そのまま企業価値の最大化に直結するものであり、企業を取り巻く環境が急速に変化する時代にあって、競争力強化の意味でも経営の安定化を図る意味でも、ただ見過ごすという選択肢はあり得ないだろう。今後日本の経営者は、いつ、どう動くかの決断を迫られることになるだろう。

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