インタビュー:原油供給不安、中ロ連携で対日情報工作か 明大教授ら分析
ホルムズ海峡を示す地図と石油樽のイメージ写真。3月26日撮影。REUTERS/Dado Ruvic/Illustration
Yusuke Ogawa
[東京 10日 ロイター] - ホルムズ海峡封鎖でエネルギーの供給不安が高まる中、日本の世論への介入を狙った外国勢力による情報工作の影が広がっている。ロシア政府との関係が疑われるSNSアカウントが3月に、原油調達を巡る偽情報を発信していたことが判明。明治大の齋藤孝道教授らが調査した。
同大サイバーセキュリティ研究所の所長でもある齋藤氏はロイターの取材に対し「社会の不安を利用して日米の分断を試みた可能性がある」と指摘。その上で、「情報戦では中ロが相互補完的に動く傾向があり、投稿の拡散にあたって、中国政府との関係が疑われるアカウント群の関与も確認された」と述べた。一問一答は次の通り。
――対日情報工作の概要は。
発端は、3月8日に確認されたX(旧ツイッター)への投稿だ。ロシア政府との関係が疑われるアカウントが「日本の大手石油会社がロシアからの石油輸入を再開した」といった趣旨の情報を英語で発信した。もちろん、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、日本はロシア産原油の輸入を原則停止している。名前の挙がった各社も投稿内容を否定した。
ただ、ホルムズ海峡の封鎖によりエネルギーの供給不安が高まる中、情報の受け手にとって一定の「もっともらしさ」があった。単に虚偽の内容を投稿するのではなく、社会不安と結び付けることで拡散されやすくしていた。
ロシアは軍事会社ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が情報工作の仕切り役とされてきたが、彼は23年に暗殺とみられる墜落死を遂げた。その後、工作活動が一時的に停滞していたが、ここにきて再び活発化している。
――SNS上で、どのように拡散が進んだのか。
最初の投稿から2日以内に、親ロ的な発信で知られる複数のインフルエンサーが翻訳や引用をする形で拡散した。これが日本語圏で急速に広がり、閲覧数は合計200万件超に達した。一方、英語圏での広がりは限定的で、日本を狙い撃ちにした工作だった可能性が高い。外国からの投稿にした方が信憑性を持たれたり日本語圏では目立つ場合があり、実はロシアの関与が疑われる情報工作は英語での発信から始まることが少なくない。
AIを用いて独自に分析したところ、今回は3月9日前後に投稿の拡散が急増したが、最大で6割超がボット(自動プログラム)と推察されるアカウントによるものだった。ボットが多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーに働きかけ、そこから一般ユーザーへと波及していく構図が浮かび上がった。近年、ロシアが欧州で展開した作戦と手口がよく似ている。
3月15日にはロシア政府系メディア「スプートニク」も同様の偽情報を発信した。
また、(位置情報の分析などから)中国政府との関係が疑われるアカウント群の関与も観測された。情報戦の分野では中ロが相互補完的に動く傾向が指摘されている。中国はこれまで共産党の思想を広げるための宣伝工作を中心に作戦を展開してきた歴史があり、戦術の幅や練度ではロシアの方がずっと上だ。それゆえ、今回はロシアが主導し、中国がそれを支える形だったとみている。
――彼らの狙いはどこにあるのか。
大きくは2点ある。第一に、エネルギーの供給不安を利用した「日米分断」の誘発だ。米国の外交・安全保障戦略に追随してよいのかという疑問を日本国民の間に生じさせ、同盟関係に揺さぶりをかける意図がある。
第二に、燃料不足への懸念を通じて日本政府の危機管理能力への不信をあおり、「政権批判」へとつなげることだ。ただ、高市早苗首相は他国に先駆けて約45日分の石油備蓄の放出を決めるなど対応が迅速だった。その結果、買い占めなどのパニック的な動きは抑えられ、社会不安が深刻化せず、情報工作の効果は限定的にとどまった。
デジタル空間における情報工作は、現実社会の不安と結びついたときに初めて大きな影響力を持つ。仮に政府の対応が遅れていれば、想定以上の成果を挙げていた可能性がある。
――デジタル情報工作は世界的に増加傾向にあるのか。
情報戦自体は以前から存在するが、SNSとインターネットの普及で作戦の効率が向上した。さらに最近ではAIの進化によって、手軽に外国語に翻訳できるようになり、画像や動画も大量生成できるようになった。AIを駆使したターゲティング広告を用いることで、特定の言論に共鳴しやすい層に標的を絞ることも容易くなっており、デジタル情報工作の件数は年々増えている。
ただでさえ日本は所得格差の拡大や、在留外国人・インバウンド(訪日外国人)の増加を背景に、社会に潜在的な不安と怒りが高まっている。ここに外国勢力が工作を仕掛け、過激な意見を持つ人々が「クラスター化」しつつある。極めて危うい状況だ。もはや平時ではなく、戦時下だと認識する必要があるだろう。
もっともデジタル後進国の日本は、こうした工作を分析し対抗できる専門家が圧倒的に不足している。国を挙げて継続的な人材育成に今すぐ着手しなければ、手遅れになる恐れがある。
(聞き手・小川悠介 編集:橋本浩)





