ニュース速報
ワールド

アングル:メキシコ大統領、酔った男に抱きつかれる被害 男性優位主義に改めて懸念

2025年11月06日(木)15時13分

支持者らに応える、メキシコのシェインバウム大統領。10月5日、メキシコ市のソカロ広場で撮影。REUTERS/Henry Romero

Cassandra Garrison

[メキシコ市 5日 ロイター] - 「こんなことが大統領にさえ起きるのなら、この国の若い女性らはどうなってしまうのか」――。メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は5日、一般市民とあいさつしていた際、男に抱きつかれキスをされそうになったとして、この男を告訴したと明らかにした。事件の動画が拡散した翌日のことだ。

ラテンアメリカで初の女性指導者であるシェインバウム氏は朝の定例会見で、この事件は犯罪だと述べ、メキシコの女性らと同様、これまでにも似たような状況を経験したことがあると付け加えた。男はかなり酔っていたという。

事件の映像はインターネットで瞬く間に拡散し、その後、一部のアカウントで削除された。「マチズモ」(男性優位主義)とジェンダーに基づく暴力が根強いメキシコで、女性らが直面する不安が改めて浮き彫りになった形だ。

この事件はシェインバウム氏の警護体制にも疑問を投げかけた。彼女はロペスオブラドール前大統領と同様、ごく少人数の警護しかつけずに移動し、人々の輪の中に積極的に入っていくなど市民とできるだけ近い立場で接している。

同氏は5日、そうした慣行を変えるつもりはないと述べ、「我々は国民の近くにいなければならない」と語った。

事件は4日、首都メキシコ市の歴史地区で起きた。シェインバウム氏が国立宮殿から教育省までの短い距離を歩いて移動していた時だった。

拡散された映像には中年の男がシェインバウム氏の肩に腕を回し、胸に触れ、キスをしようとする様子が映っていた。同氏が男の手を払いのけると、スタッフの1人が割って入った。この時、大統領警護隊員は彼女の近くにはいなかったようだ。

男は路上でほかの女性らにも嫌がらせをしており、その後に逮捕されたと同氏は述べた。

シェインバウム氏は、男が自分に抱きついている画像を掲載した現地紙「レフォルマ」を強く非難。これは「二次被害」であり、倫理的な一線を越えていると述べた。

「その画像の使用自体も犯罪だ」と彼女は語り、「新聞社からの謝罪を待っている」と述べた。

シェインバウム政権下で設立された女性省は4日、女性らに対して暴力被害を報告するよう呼びかける声明を発表。報道機関に対し、女性の尊厳を侵害する内容を再掲載しないよう求めた。

それでも、フェミニスト活動家たちはこれまで、女性に対する暴力への対応が不十分だとしてシェインバウム氏を厳しく批判してきた。特に、女性を女性であるという理由で殺害する「フェミサイド」の捜査や訴追の甘さを指摘している。

政府の統計によると、2024年にはメキシコで821件のフェミサイドが記録された。今年は9月までに501件が報告されているが、多くの活動家は実際の数ははるかに多いとみている。

フェミサイドに関する全国市民監視団のアナ・イェリ・ペレス氏は、シェインバウム氏が被害に遭ったことで、女性への暴力問題が再び国家的議題になったと述べた。

「これは非難を受けるべき問題であり、告発され、実名が公表されなければならない。暴力行為であると同時に、女性らが日常的に経験している現実を象徴するものでもある」と彼女は語った。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ商工会議所、今年の経済成長ゼロと予想 来年0

ビジネス

日産、通期の純損益予想の開示を再び見送り

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、9月は前月比+1.3% 予想を大

ビジネス

訂正-独コメルツ銀、第3四半期は予想に反して7.9
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中