ニュース速報

ワールド

アングル:ウクライナ復興事業、先行するチェコとポーランドの思惑

2023年05月27日(土)08時27分

 5月25日、 チェコとポーランドの企業が、ウクライナの復興事業獲得を見据え、いち早く行動を起こしている。写真は2022年7月、ロシアの攻撃を受けたキーウ近郊の街を訪問したオーストリアとチェコの外相。ウクライナ外務省提供(2023年 ロイター)

[プラハ/ワルシャワ 25日 ロイター] - チェコとポーランドの企業が、ウクライナの復興事業獲得を見据え、いち早く行動を起こしている。まだ、戦争が続く中でも、事業拠点の選定を進めたり、具体的な契約締結に乗り出したり、プロジェクトを立ち上げたりする動きまで見える。

これらの企業の幹部やチェコ、ポーランドの政府当局者によると、現時点で進められているプロジェクトの大半は、ロシアの侵攻でダメージを受けた基本的なインフラの復旧が焦点になっている。だが、いったん戦闘が終結すれば、新たな種類の投資案件の出現が期待できるという。

<始まった第1段階>

チェコ政府のウクライナ復興問題特使、トマス・コペクニー氏は、復興が本格的に始まった時に、受注レースの先頭にいられるのは、今恐れずにウクライナに向かう諸国になると指摘した。

チェコ政府は、2025年までにウクライナで事業を展開しようとする企業を支え、地域の貿易ミッション経由でウクライナ政府と契約を結ぶのを手助けするため、毎年5億コルナ(2350万ドル)を拠出すると約束している。

「各企業や政府は、ウクライナの市場が将来的に大きな商機になると認識している」とコペクニー氏は語り、チェコ企業がウクライナで得る収入は向こう何年間かで数倍に膨れ上がると予想。「ウクライナ復興の少なくとも第1段階は、既に進行している」と言い切った。

ロイターは、合計で十数人の企業幹部や政府関係者から、なお戦場となっているウクライナにおける事業内容や計画に関し、詳しく話を聞くことができた。

確かに復興需要は非常に大きい。ウクライナ政府と世界銀行が共同で試算したところでは、復興にかかる総費用は4110億ドルと、ウクライナの昨年の国内総生産(GDP)見込み額の2.6倍に上る。

ポーランドの銀行ペカオは、こうした復興需要によるポーランド経済の押し上げ効果は最大1890億ズロチ(456億ドル)で、ポーランドGDPの約3.8%に相当すると見積もった。

同国の建設会社ユニベプの副最高経営責任者(CEO)は「戦争が終わった段階で、ウクライナに資金が流入し、とても大きな建設市場が生まれる。多分、欧州最大規模になるだろう」と想定した。

<有利な条件>

チェコとポーランドの企業にとって、両国政府がウクライナに軍事・政治的な支援を続けていることが、ウクライナで事業を行う上でメリットとなっている。いずれも旧ソ連の支配下で辛酸をなめた「仲間意識」も強い。

1991年に旧ソ連軍が撤退した後の地域の汚染除去作業を行った実績を持つチェコの環境サービス企業デコンタは今、ウクライナ国内で水質浄化プラント建設用地を探している。同社監査役会メンバーの1人が明らかにした。

最近、ウクライナ東部の最前線に近いドニプロペトロウシク州を訪れたこのメンバーは「われわれは11カ所の水質浄化ステーションを運営したい。戦争の終結に向けて、汚染除去プロジェクトの準備もしている」と話す。

「各村を回れば、どこでも需要がある」という。

ポーランドでは投資貿易庁が用意したプログラムの一環として、2300社を超える国内企業が、ウクライナの復興事業に参加しようとしている。ほとんどは建設や建設資材関連の企業だ。

キーウにある同庁事務所の責任者は、ポーランドは韓国、日本、英国など、ウクライナの事情により精通しているポーランド企業との提携を望んでいる国の代表者とも話し合いをしていると述べた。

この責任者は「われわれはウクライナの地方政府との関係を構築しつつある。なぜなら、草の根レベルから復興を開始したいからだ。今もこれからも課題になるのは、どうやって作業する従業員を安全に送り込むかになる」と説明する。

実際、ウクライナで活動している外国企業は日々の空襲に対応しなければならず、一部では軍事コンサルタントを雇う向きもある。

チェコのヘルスケア企業ブロックCRSの幹部ヤロウラフ・カムフラ氏は「われわれは従業員のスマートフォンに空襲警報アプリをインストールしている」と明かした。ブロックCRSは無菌手術病棟や移動病院ユニットを手がけており、カムフラ氏は需要を探るためウクライナを訪問していた。

一方、ポーランドはウクライナと530キロにわたって国境を接しており、物流ハブとして機能することができる。

同国の防火システムメーカー、メルコルの社長は「(ウクライナに)ポーランドの製品が真っ先に選ばれると見込んでいるし、われわれはウクライナと距離的に近いので輸送コストの面でも有利だ」と強調。ウクライナ西部のリビウにある工場の拡張を検討している。

<課題はウクライナの透明性>

ただ、ポーランドの建設企業ZUEのビエスラウ・ノバク最高経営責任者(CEO)は、中東欧企業がウクライナで復興ビジネスを円滑に展開できるかどうかは、ウクライナの行政組織がどの程度、透明性を示す能力があるのか次第になるとの見方を示した。

非政府組織(NGO)のトランスペアレンシー・インターナショナルが公表している腐敗認識度指数によると、ウクライナの透明度は世界で116位と、近隣の欧州連合(EU)加盟国よりもはるかに低い。

ノバク氏は「経済上の手続きにおける透明性や公正な入札制度、透明な歳出とこれらの資金の決済がなければ、誰もウクライナに投資しない。ウクライナにとってはこれが一番の課題だ」と指摘した。

(Michael Kahn記者、Robert Muller記者、Anna Koper記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5

ビジネス

英建設業PMI、10月は44.1 5年超ぶり低水準
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中