コラム

戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイスラエルを待つ落とし穴

2024年10月08日(火)16時47分
イスラエル

イスラエル北部のレバノン国境付近に展開するイスラエル軍 JIM URQUHARTーREUTERS

<イスラエルのポケベル・トランシーバー爆破作戦は世界の諜報関係者も驚く大成功だった。ただ戦術上の大成功は往々にして指導者の目を曇らせ、傲慢さを招き、戦略上の政策の欠陥を覆い隠し、意図せぬ損害をもたらす>

イスラエルの情報機関モサドがレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラのポケベル数千個を一斉爆発させ、約2800人を死傷させた9月17日の事件は、史上まれに見る成功を収めた複合的情報・軍事作戦の最初の一幕だった。2週間足らずの情報工作と空爆、地上侵攻で、イスラエルは中東の戦略的バランスを根底から書き換えた。イスラエル側も現時点で民間48人、兵士8人の死者を出しているが、レバノン側の死者は約1900人。200万人近い避難民が発生した。

ポケベル作戦の翌日、モサドは何百台ものヒズボラのトランシーバーを爆発させ20人が死亡、450人以上を負傷させた。さらにイスラエル軍はヒズボラに数千回の空爆を行い、指導者の多くを殺害。ヒズボラは数百発のミサイルを発射したが、イスラエルのミサイル迎撃システム「アイアンドーム」が大半を破壊した。9月27日には、レバノンの首都ベイルートでヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師を殺害した。


イスラエルの全体的な戦略目標はヒズボラの親玉、つまりイランの脅威を除去することにある。イランは今、存亡の危機をはらんだジレンマに直面している。イスラエルを攻撃するためにつくり出したヒズボラが無力化されるのを座視するか。対イスラエルの軍事行動を起こし、アメリカの参戦を招きかねない大規模な戦争と体制崩壊のリスクを冒すのか。

ナスララの死から4日後、イランはイスラエルに向けて約200発の弾道ミサイルを発射したが、同時に戦争のリスクは避けようとした。「シオニスト(イスラエル)政権のテロ行為に対するイランの正当な反応は正当に実行された」とイラン国連代表部は述べた。これ以上のエスカレートは避けたいという意思表示だ。イスラエルは米英の支援を受け、ミサイルをほぼ撃墜したが、報復に出るのは確実だ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、台湾への干渉・日本の軍国主義台頭を容認せず=

ワールド

EXCLUSIVE-米国、ベネズエラへの新たな作戦

ワールド

ウクライナ和平案、西側首脳が修正要求 トランプ氏は

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story