ニュース速報
ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し立て」の環境準備

2024年05月18日(土)14時36分

 5月16日、トランプ前大統領の側近らは、本選で敗北した場合に備えて結果に異議を申し立てるための下準備を進め、選挙の正当性に疑念を持たせるような取り組みも行っている。写真は11日、ニュージャージー州ウィルドウッドで開かれたトランプ氏の選挙集会で撮影(2024年 ロイター/Evelyn Hockstein)

Nathan Layne Alexandra Ulmer

[16日 ロイター] - 11月の米大統領選の共和党候補指名が確実なトランプ前大統領は、民主党の現職バイデン氏と現時点で支持率が拮抗し、幾つかの激戦州ではやや優位に立っているとの世論調査もある。それでもトランプ氏や同氏の側近らは、本選で敗北した場合に備えて結果に異議を申し立てるための下準備を進め、選挙の正当性に疑念を持たせるような取り組みも行っている。

トランプ氏は最近のインタビューで、本選結果を必ず受け入れると約束しようとはしなかった。政治集会では民主党を「詐欺師」呼ばわりし、郵便投票で不正が行われていると主張。そうした「操作」ができないほど大量の投票をするよう支持者に呼びかけた。

また議会で共和党が新たに提出した外国人の投票を防止する法案を支持して、2020年の前回選挙に不正があったとする根拠のない自らの主張と、不法移民問題を結びつけようとしている。実際には市民権を持たない人の投票は既に違法で、そうした投票は滅多にないことが調査で判明している。

つまりトランプ氏は、20年の選挙を巡る振る舞いに起因する何件もの刑事訴追におびえるどころか、支持者の共感を呼ぶことが世論調査で分かっているので事実無根の発言を繰り返し、今回も敗北の際に不服を唱える上で必要となる法的な環境を整えようとしている。

トランプ氏の批判派は、同氏が再び支持者に投票システムが操作されていると信じ込ませることで、本選後に新たな混乱が起きかねないと懸念する。

4月に米誌タイムのインタビューでトランプ氏は、大統領選について「われわれが勝利しなければ、さてどうなることか」と語り、暴力的な混乱の可能性をあえて否定しなかった。

トランプ氏は、現在義理の娘のララ・トランプ氏が共同委員長を務める共和党全国委員会(RNC)に対して、投票の監視や選挙後の異議申し立てに従事する専門チームの結成を優先的に進めるよう指示した、と事情に詳しい関係者が明かす。この一環としてRNCは4月に、20年の選挙戦に比べて2倍の規模となる10万人のボランティアと弁護士を採用する計画を発表した。

昨年以降、既にRNCの弁護士は、民主党に有利とみなしている投票ルールの制限を求める訴訟も起こしている。

一方民主党は、こうした採用計画は非現実的で有権者を威嚇する狙いがあると非難し、対抗して法務チームを立ち上げつつある。

バイデン氏はトランプ氏の本選の結果を尊重しそうにない態度を「危険だ」と指摘した。

現在はトランプ氏の痛烈な批判派に転じているペンス前副大統領の側近だったオリビア・トロイ氏は「20年の選挙前にトランプ氏が行ってきたのと完全に同じ手法だ。怒りと分断、政治的暴力への布石がまた敷かれようとしている」と警告した。

トランプ氏陣営の広報担当者は、同氏が本選結果に異議を唱えるのか、あるいは政治的暴力をあおろうとしているのかとのロイターの質問には直接回答しなかったが、そうした懸念を否定。「トランプ氏は常に、自由で公正な選挙を提唱しており、そこでは全ての合法的な投票がカウントされ、不正は根絶される。民主党こそが民主主義の存続に関わる真の脅威だ」とコメントした。

<動く側近>

トランプ氏の何人かの有力な側近は、支持者たちに大統領選への不信感を植え付けようとしている。

ジョンソン下院議長は先週、市民権のない人が連邦選挙で投票するのを禁止する法案を発表。民主党が優勢な上院で否決されるのは確実だが、これが「民主党は支持拡大のため移民の流入を許している」という虚偽の主張をしているトランプ氏陣営への援護射撃であるのは明らかだ。

さらにトランプ氏の副大統領候補の一角に挙げられているスコット上院議員とノースダコタ州のバーガム知事は今月のテレビインタビューで、11月の本選結果を受け入れるとの確約を避けた。

バンス上院議員は12日のCNNのインタビューで、本選が「自由で公正」ならば結果を尊重すると述べたが、共和党はいかなる問題も追及する用意があるとくぎを刺した。

こうした流れに関して共和党のある献金者はロイターに、RNCが選挙の公正性確保にばかり重点を置き、民主党に対して立ち後れている投票促進運動をおろそかにしているのではないかとの不安を打ち明けた。

今年に入って組織が刷新されたRNCの新指導部は一部職員に、20年の選挙が盗まれたと信じるかどうか質問して忠誠度を試そうとした、という事情に詳しい関係者の声も聞かれる。

そして「20年の不正」を最も声高に主張しているのは、やはりトランプ氏本人だ。11日にニュージャージー州で開いた集会では、バイデン氏が得意とするのは選挙でごまかしをすることだけだと切り捨て、民主党を「ファシスト」と呼んだあげく、「今年の大統領選を彼らが操作するのを許さない」と息巻いた。

21年1月の連邦議会襲撃事件を調査する下院特別委員会に参加したウィルキー・ファー・アンド・ギャラガーのパートナー、ティモシー・ヒーフィー氏は、多くの支持者はトランプ氏のメッセージを単なるレトリックでなく、文字通りに受け止めると指摘。だからトランプ氏が選挙の「ごまかし」や「操作」に言及すればその影響力が大きいのは襲撃事件で見られた通りで、同氏の言葉に基づいて行動する人々が存在する、と付け加えた。

トランプ前政権時代に大統領補佐官(国家安全保障担当)を務め、その後トランプ氏批判派になったジョン・ボルトン氏は、20年よりも今回の方が本選結果に異議を唱えるのは難しくなるとみている。

その理由はまずトランプ氏が現職の大統領でなくなり政府組織を動かせなくなったことと、前回選挙結果を覆そうとした多数の側近が訴追され、他の側近が同じ行動に出るのをためらうとみられるからだという。

それでも下院特別委員会に共和党議員として加わったアダム・キンジンガー氏は、トランプ氏の側近が選挙結果を覆すのに手を貸し、混乱や暴力を巻き起こす事態への懸念を捨てていない。

「われわれは危険な局面にある」とキンジンガー氏は強調した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン水兵、南シナ海で重傷 中国海警局が「意図

ワールド

中国首相、西オーストラリアのリチウム工場視察 財界

ビジネス

EU、「バーゼル3」最終規則の中核部分適用を1年延

ビジネス

ファンドマネジャー、6月は株式投資拡大 日本株は縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 7

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中