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知らない人とパジャマでハグ!? 密かにブーム広がる「フリーハグ」ならぬ有料ハグ会の実態

2018年09月13日(木)20時00分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

お互いの「はい」「いいえ」を確認しながら、抱き合う、ふれ合う

同性でも異性でも、集まった人たち全員と抱き合う必要はない。ルールにあるように、抱きしめたいと思う人に対して「いいですか」と声をかけて、はっきりとした「はい」の返事をもらったら、抱きしめる。聞かれたときは、この人に少しでも抱きしめられたくないと思ったら、「嫌です」と言わなくてはいけない。あとで、「はい」「いいえ」の気持ちが変わってもいい。

いろいろな人を少しずつ抱きしめる人もいれば、特定の人だけを抱きしめる人もいる。抱きしめるのは1対1でなくてもよく、両脇に1人ずつの3人でもいいし、もっと多くの人たちと重なり合うようにして抱き合ってもいい。抱き合うスタイルでなくても、体の一部がふれるだけでもいい。

そして、誰とも抱き合ったりふれ合ったりする気にならなければ、何もしないという選択もある。ファシリテーターはずっといるので、困ったことがあれば、いつでも助けを求められる。

集会の終わりには、通常は、参加者たちで、いま経験したばかりの「ハグ」について語り合うことになっている。

癒されたいと、リピーターも出現

カドル・パーティーのサイトには、「人間は何歳でも、ふれることと愛情・愛着が必要だ。集会は、自分自身についてもっと知ることができ、人との新しいつながり方を模索でき、リラックスするためにもとてもよい場だ」と書かれている。ただ、癒しになったり、元気を取り戻したり、刺激を受けたり、先入観を取り除くことになるかもしれないと言いながらも、これはセラピーではないと明記している。

いくらノンセクシャルで、ファシリテーターが見ているとはいっても、見知らぬ人と抱き合うことに興味を感じたり、抵抗がないというのは不思議な気がする。でも、アイルランドでの定期集会をスタートしたファシリテーターのランディ・ラルストンさんが、つい最近、地方紙に語った記事を読むと、生身のふれあいを求める人は確実にいるのだとわかる。

「参加したことがない人は当然ながら、疑いの目で見ます。1回か2回来て二度と来ない人もいますし、数カ月ごとに来る人もいます。できるだけ何回も参加する人もいて、本当に何十回も来ている人はいます。中には自分の恋人と一緒に来てほかの人とふれ合うことを楽しむ強者もいます。いまは、集会が一種のコミュニティーのような感じになっていて、素晴らしいと思います」

抱擁のプロによる「プライベートセッション」も

グループで抱き合う活動から発展したと思われるのが、1対1で行う、性的な関心を目的としない有料サービスだ。抱擁のプロ(と言っても公的な資格はない)が、一定時間、顧客と抱き合ってくれる。プロは男女いて、必ずしも異性を選ぶ必要はなく、女性客が同性のプロをというように同性を選んでもいい。この個人セッションもアメリカだけでなくヨーロッパにも広がっている。

ニューヨークのザ・スナッガリー(The Snuggery:居心地のいい場所)は、ノンセクシャルな肌のふれ合いは心身に効用があると言われるから、是非たくさんの人たちに試してほしいと、脳と認知科学、ソーシャルワークを勉強し、園芸療法にも詳しい女性が立ち上げた。ここでは、45分(50ドル、約5600円)、60分(60ドル、約6700円)、90分(90ドル、約1万円)から選べる。顧客1人にプロ2人の「ダブル・カドル」もあって、時間は3つから選べ、料金が倍になる。また、夜10時半~翌朝7時に1泊する長時間コース(425ドル、約4万7400円)もある。

個人で抱擁ビジネスをする人もいる。カドリスト(Cuddlist)という組織には、100人以上のプロ(多くがアメリカ在住者、カドリストが指定するトレーニングを受ける)が属し、抱擁セッションを受け付けている。料金は各々のプロが決めている。セッションを受けたい人はカドリストのサイトを見て、プロを選んで直接申し込む。抱擁だけでなく、おしゃべりしたりゲームをしたり食事したりもOKだ。プロが顧客宅に行く場合もあるし、プロが場所を用意する場合もある。

カドリストは、プロとして1回は先述のカドル・パーティーの集会に参加することが望ましいとしている(義務ではない)。また、プロとしてのスキルアップは常にしてほしいとしているが、各プロが提供するセッションの質については保証していない。   

ちなみに、集会でも個人セッションでも、もしも性的に興奮しそうになった場合は自然なこととして受け入れ、エスカレートしないようにするのがルールだ。

世界的にストレスが多い社会、IT機器を使う時間が多い社会となっているのは、日本も同じ。お互いに相手の意思を尊重した「ハグ」は癒しになるとともに楽しささえ感じるそうだが、このビジネスが日本にあったらどうだろうか。見知らぬ人と抱き合う、それは、あなたにとっては普通のこと? それともチャレンジ?


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」理事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

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