最新記事
ロシア軍事

プーチンは危険なミサイル「サルマト」の配備にご執心──防空システムの部品を回しても

Russia Forced to Cannibalize Air Defenses to Make Satan-II Missiles—Report

2024年3月4日(月)15時37分
イザベル・バンブルーゲン(本誌記者)
サルマトの最初の発射実験

昨年4月、サルマトの最初の発射実験 Bloomberg Television/YouTube

<プーチンがその性能を誇示する大型ICBMだが、制裁による部品不足、テスト不足などで「危険なミサイル」とも呼ばれる>

ロシアは大型ICBM(大陸間弾道ミサイル)「サルマト」の製造を優先するため、防空システム用の電子部品を転用せざるを得ない状況だと、ロシアメディアが報じた。ウクライナ侵攻を理由とした西側諸国の経済制裁で、部品不足が起きているためだ。

これを伝えたのは、ロシアのテレグラムチャンネル「VChK-OGPU」だ。ロシアの治安部隊関係者からの内部情報だという。直前の2月29日には、ウラジーミル・プーチン大統領が年次教書演説で、サルマトを近々「戦闘任務」に就けると述べたばかりだ。

 
 

RS-28サルマトは、ロシアのマキーエフ・ロケット設計局が開発した液体燃料式のICBMで、軽量核弾頭を最大で15発搭載でき、欧米を直接攻撃できると伝えられる。現在配備されているICBM、R-36の代替だという。NATOではR-36のことを「サタン」というコードネームで呼んでいたため、サルマトもしばしば「サタンII」と呼ばれる。

ウクライナ侵攻を巡って前例のない大規模制裁を受けているロシアは、マイクロチップなど西側諸国から輸入していた先端技術品が入手できず、自国製品に置き換えようとしているが、必ずしもうまく行っていない。

「複数の情報提供者は、クラスノヤルスク機械製造工場で、戦略ミサイル製造用の電子部品が大幅に不足していると語った」とVChK-OGPUは伝えた。

「サルマトは危険なミサイル」

「新型のRS-28ミサイルシステム(サルマト)の電子部品は主に外国製で、制裁により深刻な不足が起きている。状況の打開に向けてあらゆる努力が行われており、シベリアのS-400地対空ミサイルシステムの部品まで犠牲にされている。すべてはサルマトのためだ」

本誌はこの報道内容の真偽を確認することができなかった。ロシア国防省に電子メールでコメントを求めたが回答は得られていない。

だが独立系のアナリストらからは以前から、サルマトに関して疑念の声が上がっていた。

ウクライナの「情報レジスタンス・グループ」の軍事・政治オブザーバー、オレクサンドル・コバレンコはRBCウクライナに対し、サルマトがロシアが主張するような性能を持つのか非常に疑わしいと述べた。「(サルマトは)非常に問題の多いミサイルだ。ロシアは試験発射すらまともにできていない。固形燃料式ブースターのテストの時も、時間内に準備ができなかった。そもそも、本格的な発射実験を1回しかやっていない」

「ソ連時代であっても、ICBMの試験には何年もの時間をかけた。何十回も試験を行い、問題の修正を重ねたのだ。私の思うに、サルマトは存在はするが、信頼性が低く危険なミサイルだ。だからこそ、続けて製造されていないのだ」とコバレンコは述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米家計・銀行・企業の財務状況は概ね良好=クックFR

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中