最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナが求める「勝てるだけの武器」がグローバルな食糧危機を救う

Breaking the Black Sea Blockade

2022年7月14日(木)14時49分
ブライアン・クラーク、ピーター・ラウ(共に米ハドソン研究所上級研究員)

220719p31_UKR_03.jpg

ボスポラス海峡を航行するロシア海軍の哨戒艦 YORUK ISIKーREUTERS

既にウクライナにはHIMARSとMLRSが供与されているから、大型UAVを追加してもアメリカの軍事支援のスタンスが劇的に変わるわけではない。アメリカやフランスなど西側諸国は従来よりも強力な兵器をウクライナに供与しているが、それでロシアがNATOとの対立をエスカレートさせる気配はない。

バイデン政権がウクライナへの400億ドルの支援策の一環で供与を表明したUAV「グレーイーグル」4機があれば、ロシアの海上封鎖を打破できるだろう。

この大型の無人固定翼機は強力な空対地ミサイル「ヘルファイアー」やGPS誘導爆弾を搭載可能で、時速約296キロで約25時間飛行できるため、オデーサ港とボスポラス海峡間を航行する船舶を護衛し、敵を攻撃し、航路を守る能力がある。

だが発表後まもなく、バイデン政権はウクライナへのグレーイーグル提供を撤回した。国防技術安全保障局が、グレーイーグルに搭載した最先端のレーダーや監視機器の技術がロシアの手に渡る可能性に懸念を示したからだ。

もう一つの懸念は、グレーイーグルの航続距離が長いことだろう。西側諸国の間には、ロシア領内を攻撃できるような武器をウクライナに与えないという暗黙のコンセンサスがある。戦域の拡大は誰も望んでいない。

このコンセンサスがある以上、ウクライナがロシア領を攻撃しないと確約しない限り、アメリカはグレーイーグルを供与できない。

陸海でロシア軍をたたく

しかしグレーイーグルがあれば、ウクライナの商船を守ることができる。またルーマニアから哨戒機「P-8ポセイドン」を飛ばし、ロシアのキロ型潜水艦を探知し、ターゲットの情報をウクライナ軍に伝えることもできる。こうした軍事情報の共有は、今でもやっていることだ。

グレーイーグルを使えば、強力で正確なGPS誘導爆弾で潜水艦を攻撃することができる。潜水艦を撃沈できなくとも、ダメージを与え、その場を離れさせることはできるから、商船隊は安全に航行できるだろう。

ウクライナ東部と南部の戦線でも、グレーイーグルは威力を発揮できる。これから供与されるはずの中距離防空ミサイルなどと併用すれば、今度こそウクライナ軍は「NATO並み」の戦力でロシア軍と対峙できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月利下げが適切 以後は慎重に判断─シュナ

ビジネス

中国4月鉱工業生産、予想以上に加速 小売売上高は減

ワールド

訂正-ポーランドのトゥスク首相脅迫か、Xに投稿 当

ビジネス

午前の日経平均は反落、前日の反動や米株安で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中