最新記事

韓国

韓国政府、「K-防疫」を過信してワクチン手配に出遅れた?

2020年12月21日(月)16時50分
佐々木和義

「K-防疫」の成功から一転、医療崩壊危機、ワクチン手配の遅れなどの問題が取り沙汰されている...... Jung Yeon-je/REUTERS

<韓国では、政府が当初に成功を収めた韓国の新型コロナウイルス対策「K-防疫」を過信するあまり、ワクチンの手配で出遅れたという声が上がっている......>

新型コロナウイルスの感染者は世界中で急増しているが、韓国でも新型コロナウイルスの1日あたり新規感染者が連日1000人を超え、医療現場が混乱している。入院待機中の感染者が死亡し、救急搬送された患者が、治療を受けられない事態に陥った。

韓国政府が、感染が拡大しはじめた当初に成功を収めた韓国の新型コロナウイルス対策「K-防疫」を過信するあまり、ワクチンの手配で出遅れたという声が上がっている。

病床ひっ迫で医療崩壊の危機

2020年12月15日、60代の新型コロナウイルス感染者の遺体がソウル市内の自宅で発見された。死亡した感染者は、同居していた配偶者が新型コロナウイルスの陽性判定を受けたため、同月11日に検査を受け、翌12日に感染が確認された。東大門区保健所は市の生活治療センターに入院させることを決めたが、ソウルでそれまで最多の399人の感染が判明した日と重なり、当局は病床の配分を断念、すぐには入院できなかった。

14日早朝、「血痰が出て咳の症状がある」という報告を受けた東大門区保健所は、病状が急変したと判断し、市に緊急入院を要請した。同日午後、本人が配偶者に体調が良くないと連絡し、保健所はふたたび市に緊急入院を要請して病床の空きを待ったが、翌朝、電話がつながらなくなった配偶者の通報で救急隊が到着したときにはすでに死亡していた。

16日、ソウル市は感染症専門病院の重症患者治療病床80床のうち、79床が使用中で、入院可能な病床は1床のみと明らかにした。生活治療センターも1929床のうち1282床が使用中で、すぐに使用可能な病床は159床のみだった。翌17日には、ソウル市内で新たに398人が陽性判定を受け、自宅で待機する感染者は580人に上った。

適切な診療を受けられないのは感染者だけではない。12月1日、高リスクと診断されていた妊婦が発熱と悪寒を訴え、家族が救急車を手配した。妊婦は数日前に退院した大学病院を指定したが、同病院の救急室がコロナ対策を理由に受け入れを拒絶した。3時間に亘って病院のたらい回しに遭った妊婦は一命をとりとめたが、死産だった。

また、急性腎不全症で救急搬送された89歳の患者は、救急室への入室を拒絶された。新型コロナウイルスの検査を受けて3時間後に入院したが、病院の外で付き添っていた57歳の息子は「父は亡くなるところだった」と話している。

「K-防疫」を過信しすぎた?

韓国政府が「K-防疫」を過信し、感染の拡大防止とワクチンの手配に失敗したという声が上がっている。ウイルスが拡散しはじめた3月、韓国政府は社会的距離の確保と検査体制を強化する「K-防疫」を推進、以後、規制の強化と緩和を繰り返した。

政府がスポーツ・ジムやスクリーン・ゴルフの利用を規制すると、運動不足を抱えた市民らは公園に殺到した。外出自粛措置に伴って電車や地下鉄の間引き運転が始まり、運行間隔が長くなった駅のホームや運行本数が少なくなった車両は混雑を増した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中