1947年にパキスタンとインドが分離独立を果たして以来、両国は4回も戦争・紛争をしてきた。2025年5月にも国境係争地であるカシミール地方で、全面的な戦争とは言わないが、4日間にわたり大きな衝突が起きた。

このときの報道は、銃撃戦やドローン攻撃に集中していたが、最も重要な攻防が繰り広げられたのは宇宙であることを指摘した専門家はほとんどいない。2つの核保有国の衝突が人工衛星によってコントロールされたのは世界史上初めてだ。

それは初日(5月6日)の夜から明白になった。

総合的な軍事力でインドに劣るパキスタンは、地上のレーダーと早期警戒機、ネットワーク、衛星測位システムを融合して、敵を発見し、攻撃を立案し、実行する「キルチェーン」を展開した。パキスタン空軍の上層部が長い年月をかけて構築し、運用訓練を重ねてきたものだ。

パキスタン当局の発表によると、パキスタン軍は中国製の戦闘機「殲10C」から、やはり中国製の長距離空対空ミサイル「PL15」を発射して、200キロ以上離れたインド軍のラファール戦闘機(フランス製)を撃墜した。

戦闘機が視認できない距離にある敵機を撃墜した例は、実戦ではほとんどない。インド側はこれをすぐには認めなかったが、アニル・チョーハン国防参謀長が後日、空軍機を失ったことを認めた。

インドは猛反撃を展開したが、緒戦を決定づけたのは兵員数でも、特定の戦闘機でもなく、キルチェーンの優位と、その運用の訓練レベルだった。そして、その全てを支えていたのが宇宙技術だった。

パキスタンを助けた中国

現代の戦争で衛星技術は不可欠になっている。衛星画像で標的を探し、衛星測位システムで兵器を誘導し、衛星通信がシステム全体をまとめ上げる。インドもパキスタンも、衛星技術を活用して国境の向こう側を攻撃してきた。

インドには大規模な防衛産業があるが、攻撃の成果を確認するために使ったのは、アメリカの宇宙技術企業マクサー・テクノロジーズから入手した衛星画像だった。

一方、パキスタンは中国のシステムを利用している。インド軍幹部によると、中国はインド軍の動きをリアルタイムでパキスタンに伝えていた。また、中国版GPS「北斗」は、ターゲットの位置情報をパキスタンに提供したという。

ただ、よく聞かれる「中国に依存するパキスタン」という言説は修正する必要がある。軍事技術を開発するに当たり、小国が大国を頼りにするのはパキスタンが初めてではない。インド初の人工衛星は、1975年にソ連のロケットで打ち上げられた。中国もまた、ソ連からミサイル技術を導入した。

だが、外国の技術を借りるのには代償が伴う。確かに商業衛星や、同盟国や友好国の宇宙技術は、インドやパキスタンに単独では獲得し得ない軍事力をもたらして、南アジアの「戦略的な均衡装置」となってきた。だがそれは、2つの核保有国の対立に、第三国を介在させることにもなる。また、地域紛争をアメリカやロシア、中国の対立と結び付ける恐れもある。

そこでインドは、圧倒的な量によってこの問題に対処することにした。約32億ドルを投じて、パキスタンと中国とインド洋を監視する国産の軍事衛星52基と、新しい宇宙ドクトリン、そして対宇宙兵器を開発しようというのだ。

既にインドは、2019年のシャクティ作戦で、高度300キロの軌道上の衛星をミサイルで撃墜する能力があることを証明した。パキスタンは、中国との連携を深めて、これに対抗する可能性が高い。

時代遅れの宇宙条約

ただ、現時点で深刻な問題は、宇宙で戦闘が起こることではなく、衛星を活用した兵器システムによって、作戦上の決定が極度に短時間で下されるようになることだ。敵の動きをほぼリアルタイムで監視でき、標的確認から数分で攻撃できるとなれば、状況が変わる前に攻撃したいと指揮官が焦るのは無理もない。

隣接する核保有国が、意図的に事態をエスカレートさせることはまずない。それよりも、時間的なプレッシャーが勇み足を誘発する恐れがある。そして衛星技術は誤算が許される範囲を縮小する。

しかも、そこにはルールがない。1967年の宇宙条約は、大量破壊兵器を宇宙軌道に乗せることを禁じているが、通常兵器や電子兵器についての定めはない。新たな規範作りも進んでいない。

インドは近年、宇宙における責任ある行動を唱える国連決議を相次ぎ棄権している。パキスタンもこの領域で自制を訴えるにとどまっている。宇宙分野には、冷戦時代に米ソ対立をある程度抑制したホットラインや軍縮条約に類するものすら存在しない。

宇宙戦争に関する議論は長年、アメリカと中国、そしてロシアを中心に進められてきた。だが、2つの核保有国が宇宙技術を使って衝突するとどうなるかを世界が初めて目にするのは、次の印パ戦争においてかもしれない。

筆者は研究者になる前、17年間パキスタン空軍の兵士だった。その経験から言えるのは、2025年5月の印パ衝突は、規制の枠組みが整う前に、両国が同じ宇宙技術をめぐり競い合っていることを世界に見せつけた紛争だったということだ。

技術は急速に進歩しているが、その暴走を防ぐ安全装置の進歩は追い付いていない。

The Conversation

Muhammad Waqas Haider, PhD candidate in International Relations, Lancaster University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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