最新記事

アメリカ社会

「米国では、2日ごとに500人が医療事故で死亡している」は本当か?

2019年8月9日(金)19時15分
松岡由希子

2016年には、米ジョンズ・ホプキンズ大学医学部が「年間25万1454名の入院患者が医療事故で死亡している」との調査結果を発表し、「米国で、医療事故が、心臓病、がん(悪性新生物)に次ぐ第三位の死因となった」というニュースは米国内外でセンセーショナルに報じられた。

50分の1から80分の1である......

しかしながら、米ウェイン州立大学のデイヴィッド・ゴルスキ博士は「ジョンズ・ホプキンズ大学医学部の検証結果は正式な方法論で導きだされたものではなく、ばらつきが大きい医療事故の定義に依存している」と指摘。「有害事象(因果関係の有無を問わず医薬品の投与によって生じる好ましくない有害な反応)は、医療事故がなくても起こりうる」と述べている。

また、米ワシントン大学の研究チームが2019年1月に発表した研究論文では、1990年から2016年までの「世界の疾病負担研究(GBD)」のデータを用い、すべての有害事象を対象に死亡との因果関係、過誤の有無を分析した結果、医療事故による死亡者数は、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部の検証結果の50分の1から80分の1であることが示された。

古いデータを引用したことも批判の的に

このように長年、議論されてきた経緯があるにもかかわらず、タイソン博士が古いデータを引用したことも批判の的となっている。タイソン博士がツイッターへの投稿で「平均48時間ごとに医療事故で500人が死亡している」と述べたのに対し、ブロガーのハンク・グリーン氏は、自身のツイッターで「損害をもたらすおそれのあるデータであり、科学者や技術者と一般の人々をつなぐ『サイエンスコミュニケーター』ならば、脈絡なく共有するはずのないものだ」と非難している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、北朝鮮の金総書記に新年のメッセージ

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中