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「元徴用工判決」への誤解を正す ICJ提訴は必ずしも有利にならない

2018年12月7日(金)11時30分
木村 幹(神戸大学教授)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載

加えて言えば、今回の判決において多数意見に抗して「請求権協定で個人的請求権は消滅した」とする少数意見を主張した2人の判事のうち1人は、文在寅自身が大法院判事に任命した人物であり、逆に李明博、朴槿恵が任命した判事は6人のうち5人が今回の判決を支持している。事態は、文在寅に近い「左派」の裁判官が今回の判決を支持し、「右派」がこれに抗したという図式とは大きく隔たったものとなっているのである。

強調すべきは、今回の事態にどのように対処していくにせよ、正確な事態の認識無しには効率的な対処は不可能だということである。従前の安易なステレオタイプに依存せず、目の前の状況を正確に報じ、議論することが必要である。メディアの奮起が重要になる。

そして同じことは日本政府についても言うことができる。例えば、この判決の直後、与党のそれを含む多くの政治家が、この判決を「国際法違反」だと糾弾し、問題を直ちに請求権協定に規定された仲裁委員会や、さらにはそれをも飛び越えて国際司法裁判所(ICJ)の審判に付して解決すべきだと主張した。そして恐らくその背景にあったのは、今回の大法院判決が明らかに請求権協定に反するものであり、国際的な司法の場に持ち込みさえすれば日本が必ず勝てるはずだ、という理解であったに違いない。

しかしながら、事態はそれほど簡単ではない。なぜなら、仮にこの問題を国際的な場に持ち込めば、そこで問われるのは、大法院判決の是非ではなく、請求権協定そのものの解釈になるからである。当然、そこでは元徴用工等が有する請求権のみならず、元慰安婦やサハリン在留韓国人、さらには韓国人原爆被爆者の補償問題についても議論されることになる。

とりわけ重要なのは、慰安婦問題についての国際社会の理解が必ずしも日本政府にとって有利とは言えない状況にあることであり、それ故対処を誤れば、仮に元徴用工等に関わる部分では勝訴しても、元慰安婦らに関わる部分で日本側は敗訴する、という可能性もないわけではない。国際社会における慰安婦問題への注目度は、元徴用工等に対するそれよりもはるかに大きい。韓国政府からすれば、元徴用工等部分で敗訴しても慰安婦部分で勝訴することができれば、十分過ぎるほどのポイントを稼ぐことになるだろう。

だからこそ、この状況でもう一度、日韓両国がこれまで歩んできた歴史認識問題をめぐる議論を洗い直し、冷静な対処方法を考えることが重要だ。一体どのような方策が最もわが国の国益にかなうのか。法律的な議論であるからこそ、プロフェッショナルな姿勢が問われている。(一部敬称略)

[執筆者]
木村 幹(きむら・かん)
神戸大学教授
1966年大阪府生まれ。京都大学大学院博士後期課程中途退学、博士(法学)。愛媛大学講師等を経て2005年より現職。その間に、ハーバード大学、高麗大学等にて客員研究員等を歴任。著書に、『だまされないための「韓国」』(浅羽祐樹・安田峰俊との共著。講談社)、『日韓歴史認識問題とは何か』(ミネルヴァ書房、14年)等多数。

※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
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