最新記事
ロック

ロック界のカリスマ、フランク・ザッパの娘が語る「私たち家族は健全なカルト集団だった」

Not All Cults Are Bad

2024年9月12日(木)22時35分
ムーン・ユニット・ザッパ(俳優、歌手、作家)
ロック界のカリスマ、フランク・ザッパの娘が語る「私たち家族は健全なカルト集団だった」

8月にロックのアイコンである父フランク・ザッパの回想録を出版した娘のムーン DANIEL ZUCHNIKーWIREIMAGE/GETTY IMAGES

<父の愛情と創造力と導きを求め続けた。父の絶望的なユーモアと尽きることのない創造性、それに飢えていることをカルト的な孤独と呼ぶなら、私は喜んで受け入れる>

先日、ロサンゼルス郊外のサンフェルナンド・バレーを散歩していたら、歩道に「全てのカルトが悪というわけではない」と書かれていて、思わず笑ってしまった。

私は新刊の回顧録『アース・トゥ・ムーン』で、ロックのアイコン、フランク・ザッパの娘として育った日々を振り返っている。私にとって父は『スター・トレック』のミスター・スポックであり、キリストでもあった。子供の頃、父の愛情を奪い合う相手は家族だけではなかった。彼の辛辣で風刺的で誘惑的な歌を聞いて信者になった熱狂的なファンもライバルだった。


私たち家族の関係は、カルト集団と似ていなくもなかった。私は偉大な指導者のために喜んで食べ、眠り、飲み、生きた。もっとも、私たちは健全なカルトだ。父の絶望的なユーモアと尽きることのない創造性にはいくら触れても足りず、それに飢えていることをカルト的な孤独と呼ぶなら、私は喜んで受け入れる。

父の膨大な数のアルバムはタイムカプセルだ。一つ一つの曲が記憶生成装置となり、特定の場所と時間に私を運ぶ。父の膝くらいの背丈だった頃に、地下の簡易スタジオで聴いた曲。子供部屋のベッドの上段で人形を抱き締めながら聴いた最新作──。

5歳の時に初めてもらった日記帳には、父の美しいブロック体と黒インクで題辞が記されていた。私は架空のラクダの短編小説を書き、修道女に扮した自分を描き、(母の)ゲイルとフランクが裸でパンケーキのように重なるスケッチを描いた。

newsweekjp_20240912040828.jpg

ザッパと妻ゲイル(1971年、ロンドン) BILL ROWNTREEーMIRRORPIX/GETTY IMAGES

ティーンになると、私の日記は父の居場所の記録になった。フランクはいつも旅をしていた。ツアーが始まると1年の大半は家を空け、鳥が枝に舞い降りるようにほんのつかの間、帰ってきた。

ゲイルは自分の寂しさを私にぶつけることが多く、父の時間と関心と愛情を切望する私の思いは一層深まった。正確には、心が痛かった。

自分の家族が普通ではないことは早くから分かっていた。家の中にはあふれそうな灰皿や空のコーヒーカップ、ウィジャボード(占いのゲーム盤)が並んでいた。

リビングが紫色で、父親の仕事場にダッチワイフがある家を私はほかに知らなかった。上着のポケットにパンケーキを入れてヨーロッパから持ち帰り、妻に味を再現させるという話も聞いたことがない。

色鮮やかな思い出の1つは、フランクがゲイルと私をリリー・トムリンのライブに連れて行ってくれたことだ。珍しく楽しそうに笑っている父を見て、いつか私もこんなふうに彼を笑わせたいと思った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、イスラエル向けF15戦闘機の契約発表 86億ド

ワールド

トランプ氏「台湾情勢懸念せず」、中国主席との関係ア

ワールド

ロ、ウクライナで戦略的主導権 西側は認識すべき=ラ

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタル基盤投資会社を買収 AI
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中