コラム

最前線にいた元皇軍兵士14人が中国人への加害を告白──『日本鬼子』の衝撃

2020年09月17日(木)19時05分

この映画が公開されてからほぼ20年。日本では今も、南京虐殺はなかったとか、従軍慰安婦はいなかったと主張する人が後を絶たない。あの戦争はアジア解放が大義だ、虐殺などあるはずがない、と。だから認めない。直視しない。多くの人が使う「先の大戦」という呼称が象徴的だ。固有名詞がないのだ。今さら『主戦場』が激しい論争を呼び起こすことが、この国の現状を端的に示している。つまり日本は今も、自分たちの加害行為を歴史にできていない。

上映が終わって出口に向かう通路を歩いていたら松井稔監督と擦れ違った。静かに握手を求められたけど、感想は何も言えなかった。「圧倒されました」とつぶやいたかもしれない。それが精いっぱいだった。

magm200916_2.jpg『日本鬼子(リーベンクイズ) 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』(2001年)
©「日本鬼子」製作委員会
監督/松井 稔
ナレーション/久野綾希子

<本誌2020年5月19日号掲載>

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9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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