イギリス

歯科予約がイギリスで12ヶ月待ち 接着剤とヤスリの「DIY歯科治療」が問題に

2022年6月6日(月)16時15分
青葉やまと

イギリスでは虫歯の治療に12ヶ月待ちを記録する異常事態となっている...... REUTERS/Phil Noble (BRITAIN)

<すぐにでも手を打ちたい、口内のつらいトラブル。しかしイギリスの場合、1年近い辛抱が求められる事態になっている>

パンデミックにより、イギリスの歯科事情は著しく悪化した。英国民保健サービス(NHS)の待機者リストは肥大化し、虫歯の治療に12ヶ月待ちを記録する異常事態となっている。

激しい痛みを抱えたまま1年も待てないとばかりに、自ら対処を試みる人が相次ぐようになった。抜歯や麻酔などの専門知識なくして応急処置を試みる人々が現れ、「DIY治療」の流行だとして問題になっている。

英ガーディアン紙は5月30日、『瞬間接着剤と自力の抜歯:イギリスの破れかぶれの「DIY歯科治療」の耐え難い現実』と題する記事を掲載した。「最近はホラーストーリーが豊富にある」と記事は述べ、自らの手で5本の歯を引き抜いた女性の事例などを取り上げている。

こうした事例は、経済的に恵まれない人々のあいだでとくに多い。同記事によると、ケンブリッジにほど近いサフォーク州の男性は痛みに耐えかね、市販の瞬間接着剤と金属ヤスリで自己流の治療を決行した。

親知らずの治療に2年待ち、平衡感覚にも狂いが

イギリスでは光熱費が高騰するなど、生活費の上昇が深刻な問題となっている。そこへ歯の治療費が追い討ちをかけ、正規の治療を諦める人々が続出していることで社会問題となった。

ウェールズ地方で美容師として働くケイティ=ルイーズ・ホーウェルズ氏は、親知らずの治療を希望した際、2年待ちだと告げられた。待機のあいだに、虫歯菌は彼女の耳まで侵しはじめた。彼女は英BBCに対し、「顔の片側全体が痛み、口を開けて食べたり飲んだりすることができません。あごが動かず、耳に痛みが出ており、平衡感覚にも影響が出ています」と訴える。

また、同じウェールズに住むメラニー・ファッジ=ホートン氏は、家族の暖房費を優先して自分の歯を失った。彼女は夫のマルク氏とともに、精神疾患を患う2人の子供を養っており、自費診療を受けられるほど生活費にゆとりがない。歯の治療に1000ポンド(約16万円)がかかるとわかると、代わりに50ポンド(約8000円)の抜歯を選択した。「家を暖めるのか自分の歯を守るのか、どちらかの選択が必要でした」と彼女は振り返る。

DIY治療でさらなる悪化も

虫歯はごく初期段階のものを除き、基本的に自然治癒は望めない。治療を待機しているあいだにも症状は悪化し、さらに本格的な治療が必要となる悪循環だ。そこでDIYに手を出す人々が多く出ているが、これもまた症状の悪化に拍車をかけかねない。

イギリスでは治療キットをネット通販で入手できる。詰め物の応急処置に使う充填剤や、入れ歯の補修用の接着剤、歯垢除去の金属フック(探針)などが販売されている。歯科用品製造の英ブーツ社によると、ロックダウン中、イギリスの家庭の25%がこうした治療キットに頼ったという。

今、あなたにオススメ

注目のキーワード

注目のキーワード
トランプ
投資

本誌紹介

特集:コメ高騰の真犯人

本誌 最新号

特集:コメ高騰の真犯人

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

2025年6月24日号  6/17発売

MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

人気ランキング

  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 6
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
もっと見る
ABJ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。