コラム

ダイハツ不正問題、「社風のせい」は大間違い...「現代社会では当たり前のこと」ができていなかった

2024年01月17日(水)18時38分
ダイハツ不正問題

KIM KYUNG-HOON–REUTERS

<ダイハツの不祥事は「自己中心的な社風」が原因のひとつとされるが、社風とは良い方向にも悪い方向にも働くものだ>

軽自動車を手がけるダイハツ工業が長年にわたって大規模な不正を行っていたことが明らかになった。自動車は日本の基幹産業であるとともに、グローバルに通用する数少ない分野の1つである。日本の豊かさを支える最後のとりでが虚偽のデータで支えられていたという現実は、多くの国民に衝撃を与えたことだろう。

不祥事の原因としてさまざまな理由が指摘されており、その中の1つがダイハツの社風とされる。第三者委員会による調査報告書では「自分や自工程さえよければよく、他人がどうであっても構わない」という自己中心的な風潮があり、これが認証試験のブラックボックス化を招いたと指摘している。こうした情緒的な表現はメディアも取り上げやすく、関連した報道が多数、見受けられる。

自己中心的な社風が存在していたのはそのとおりなのだろうが、企業の不祥事を社風の問題として片付けることは、資本主義が高度に発達した現代社会においては危うい行為であると筆者は考える。なぜなら、社風というのは極めて曖昧なものであり、良い方向に働くこともあれば、悪い方向に働くこともあり、それ自体が絶対的な要因にはなり得ないからである。

製造業というのはモノ作りそのものであり、その業務の性質上、何かトラブルがあると全て後工程にシワ寄せがいく。もし各工程の担当者が他部署のことを考慮し、柔軟に対応するような社風だった場合、前工程のミスを後工程でごまかすといった行為が行われかねない。

かつて優秀な日本メーカーにあった社風

つまり自己中心的な社風というのは、品質を担保する重要な役割を果たす可能性もあり、一概に悪いとは言えないのだ。優秀とされた多くの日本メーカーでは、自分の管轄以外のところは一切関心を持たず、指定された業務に集中し、それ以外の要求には応じないという頑固な社風が出来上がっていることが多かった。

このように社風というものは、いかようにも作用するものであり、どう作用するのかは状況によって変わる。戦後の日本社会は社風という曖昧な力を武器に、工業製品の大量生産に邁進したが、社会は確実に変化している。

特定の社風を維持するには、同質社会であることが絶対要件となり、同じような人材ばかりが採用され、組織は硬直化していく。特に1990年代以降は市場の多様化とデジタル化が一気に進み、従来のやり方はことごとく通じなくなった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国は重要な隣国、関係深めたい=日中首脳会談で高市

ワールド

米中国防相が会談、ヘグセス氏「国益を断固守る」 対

ビジネス

東エレク、通期純利益見通しを上方修正 期初予想には

ワールド

与野党、ガソリン暫定税率の年末廃止で合意=官房長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story