コラム

トランプ経済が「レーガノミクスの再来」ではない理由

2017年03月07日(火)17時07分

ロナルド・レーガン大統領(1981~1989年) Stelios Varias-REUTERS

<トランプの経済政策を80年代のレーガンの経済政策と比較する向きがあるが、似ているのはむしろ、民主党・ルーズベルト大統領のニューディール政策だ>

2月28日、トランプ米大統領による初の議会演説が無事終了した。注目の経済政策については概ね事前の予想通りだったが、政策の優先順位がより明確になった。

大統領選挙以後、株式市場はトランプ経済に対する期待感のみで株価上昇が進んできた。議会演説において、経済政策に関する具体的な言及がなかった場合、市場が失望売りに転じる可能性があった。多くの市場関係者が演説の中身に注目していたのはこうした理由からだ。

演説は、雇用の海外流出に歯止めをかけ、国内における雇用と投資の拡大を主張するもので、概ね、事前に予想された通りだった。トランプ経済の目玉である大型減税と大規模インフラ投資についても言及があり、公約が実現される可能性が高まってきた。市場には安心感が広がっており、翌日の米国株式市場は大幅高となっている。

ただ、各政策の実現可能性については微妙な違いが表面化している。トランプ氏はインフラ投資について、総額1兆ドル(114兆円)と金額を明示した上で、議会に対して法案を成立させるようはっきりと要請している。しかし、大型減税については金額についての言及がなく、具体的なスキームも提示されなかった。また、トランプ流保護主義の要となる国境税についても、抽象的な説明に終始した。

【参考記事】トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(前編)

現在、トランプ政権と議会共和党は税制改革の内容について協議を続けているが、まだ着地点を見出せていない。今回の演説で税制の詳細について言及がなかったことは、場合によっては議会との交渉が長引く可能性を示唆しているとみてよいだろう。

ではそうなってくると、トランプ政権における経済政策は、当面どのような流れで進むのだろうか。実現の容易さという点で考えると、もっとも確度が高いのは1兆ドルのインフラ投資である。続いて、法人税・所得税の大幅減税、国境税の導入という順番になるだろう。

インフラ投資の優先順位が高いということは、トランプ経済はどちらかというと需要創造型になることを意味している。

トランプ政権は、しばしばレーガン政権(1981~1989年)と比較されることが多いが、レーガン政権が実施した経済政策(いわゆるレーガノミクス)は完全な供給サイド経済であり、当面のトランプ経済とは正反対の立ち位置になる。トランプ氏の政策はむしろ大恐慌後に民主党のルーズベルト大統領(1933~1945年)が実施したニューディール政策に近い。

アイゼンハワーとも異なり、レーガンとはむしろ正反対

トランプ氏が議会に法案成立を要請したインフラ投資は、鉄道や道路、トンネル、空港などについて、民間資金と公的資金を組み合わせ、10年をかけて総額1兆ドルを支出するというものだ。その狙いは、雇用の海外流出などで不本意な就労を余儀なくされている米国の労働者に対して仕事を再分配することにある。

トランプ氏は演説の中で、アイゼンハワー大統領(1953~1961年)による高速道路網の整備について言及した。確かにアイゼンハワー氏は全米に高速道路網を整備した立役者たが、同時に徹底した均衡財政論者でもあった。朝鮮戦争の早期終結を図ったのも、戦費の増大による財政悪化を懸念してのことである。また、高速道路への投資は、雇用を生み出すことが目的ではなく、急速に進む車社会(モータリゼーション)に対応するという意味合いが強かった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円・ユーロで上昇、FRB議長

ビジネス

米国株式市場=まちまち、金利の道筋見極め

ビジネス

制約的政策、当面維持も インフレ低下確信に時間要=

ビジネス

米鉱工業生産、3月製造業は0.5%上昇 市場予想上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story