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アングル:マチュピチュも閉鎖 反政府デモでペルー観光業が危機

2023年02月11日(土)12時26分

 ペルーは、過去20年で最悪の社会不安に見舞われている。高原地方で活動する何千人もの観光ガイドらは、客足が遠のく中、2カ月にわたり自宅待機状態だ。写真は、ペルーにあるボリビアとの国境の町デサグアデロで、ボルアルテ大統領の辞任を要求する抗議者ら。1月26日撮影(2023年 ロイター/Claudia Morales)

[7日 トムソン・ロイター財団] - ペルーに住むフアン・アシンさんは長年にわたり、観光ガイドの仕事でまずまずの収入を得ていた。ペルー観光の中心地であるクスコ、そして世界的に有名なマチュピチュ遺跡の周囲に広がるインカ帝国期の古道や渓谷を楽しむコースだ。

だがアンデス山脈沿いに位置するペルーは、過去20年で最悪の社会不安に見舞われている。アシンさんも含め、この高原地方で活動する何千人もの観光ガイドらは、客足が遠のく中、2カ月にわたり自宅待機状態。生計を維持するのに苦労している。

アシンさんは地元の街から電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じ「観光はストップしてしまった。観光客がいなければ仕事もないし収入もない」と語った。道路は抗議参加者によって封鎖され、1月にはマチュピチュ遺跡が閉鎖されたことで地元経済は大打撃を受けている。

抗議参加者と治安部隊の衝突では何十人もの死者が出ている。市街地での反政府抗議行動の発端となったのは昨年12月7日、左派のペドロ・カスティジョ大統領(当時)が反逆容疑で逮捕・拘束されたことだ。

政治の混乱が深刻化した背景には、ペルー国民3400万人の多くが感じている社会的な不平等や差別に対する長年の不満がある。アンデス、アマゾン両地方の貧しい村落では特にそれが顕著だ。

「抗議行動はほんの数週間で終わるだろうと予想していたのに。例年、祝祭日や観光シーズンであるはずの時期が台無しになってしまった」とアシンさんは言う。アシンさんをはじめ、クスコを拠点とする約9000人のガイド、さらにはホテルや飲食店の従業員、工芸職人、小規模な旅行代理店も観光に依存している。

アシンさん同様、観光ガイドの大半は自営業であり、現金払いで1日30ドル(約3900円)―60ドルの収入を得ている。

「私たちには保険もないし、何の安定性もない独立業者だ。ガイドや料理人、運転手、ポーター、誰もが仕事を失ってしまった」とアシンさん。現在58歳で、20年以上にわたってガイドとして働いてきた。

抗議参加者により道路が封鎖されているところもあり、クスコその他の地域ではガソリンや調理用燃料、食品が不足する事態に。ただでさえ高い価格がさらに上昇している。

ペルーのインフレ率は2022年には8.5%に迫り、年率ではこの四半世紀で最も高水準となった。経済アナリストらは、抗議行動の影響が出ている地域の多くが、物価上昇による打撃を最も強く受けていると言う。

<大量解雇>

植民地時代の雰囲気を残すクスコの街路や広場はかつて1日4000人以上の観光客を迎えてにぎわっていたが、今は閑散としており、何千人もの屋台商や市場内の商店主が収入を失っている。

クスコのレストランやホテルでも従業員が大量解雇された。ペルー観光事業者協会クスコ支部の代表を務めるリカルド・ベラスケス氏は、同市内では4万人分の雇用が失われたと話している。

「外国人観光客の足が遠ざかっており、2月、3月の旅行もキャンセルされているので、長期的にダメージを感じることになるだろう」とベラスケス氏は言う。

ペルー観光協会の試算によれば、国内雇用の創出において重要な柱の1つとなっている観光セクターは、12月初めに反政府デモが始まって以来、約4億ドル(525億円)の損失を被っているという。

ホテル外食産業協会によれば、ペルーでは今年の観光客数について、コロナ禍が収まりグローバルな観光産業が息を吹き返す中で、昨年に比べて大幅増の約350万人になると予想していた。

政府統計によれば、昨年ペルーを訪れた観光客は140万人だった。

クスコを拠点とする小規模な旅行代理店バイオペルー・トラベルでマネジャーを務めるジョエル・アンチャヤ氏は、5人いたスタッフの4人を解雇したと話す。会社で使っていた5人の自営ガイドは、12月初め以降、仕事をしていないという。

アンチャヤ氏は「この国の南部は地盤沈下している。顧客は旅行をキャンセルし、返金を求めている。フリーランスのガイドは働くこともできない。観光業は死んだも同然だ」と語る。同氏自身も元観光ガイドで、この業界で10年働いてきた。

友人や家族は貯蓄を取り崩して何とか生活しており、それも尽きた者は知人や銀行から借金しているという。

「私たちは借金で首が回らない」とアンチャヤ氏は話した。

<新型コロナの打撃も>

カルロス・ポラール氏も、クスコで小さな旅行代理店クスコペルーを経営する事業主だ。観光業はコロナ禍が引き起こした大打撃によりぐらついていたが、そこに抗議行動が新たな惨状をもたらしたと同氏は言う。

「2年に及ぶコロナ禍という別の大打撃から回復しつつあったのに、今度はこれだ。全てが崩壊した。この街は観光で持っている。今回の危機で、私たちは破産寸前だ」とポラール氏。通常であれば1日に運転手3人、ガイド4人を雇っていたが「今はキャンセルと返金に対応するスタッフが働いているだけだ」と言う。

昨年8月、コロナ禍で苦しむ企業を対象とした政府系の低利融資制度「レアクティバ・ペルー(ペルーの再活性化)」の借入金返済を開始したが「今月は危機的な状況にあるから、返済は無理だ。私たちはおびえている」と話す。

抗議デモ参加者らの主な要求は、国会が早い時期に解散総選挙に踏み切ることだ。だが国会議員らは前週、今年12月に総選挙を前倒しするという提案を拒否しており、政治的混乱は長引きそうだ。

自宅待機状態のアシンさんはこう語った。「抗議デモ参加者らが突きつけている社会的な要求には賛同する。とはいえ、皆は働きたがっている」

(Anastasia Moloney記者、翻訳:エァクレーレン)

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