ニュース速報

ワールド

アングル:「マスク外すと裸の気分」、米指針緩和に反応さまざま

2021年05月11日(火)14時45分

 5月7日、元教員のアニータ・グリックさんは今週、首都ワシントンの国会議事堂周辺で友達の犬を散歩させるときに、ちょっとした解放感を味わった。写真は4日、マスクなしでニューヨークのタイムズスクエアを歩く女性(2021年 ロイター/Carlo Allegri)

[ワシントン 7日 ロイター] - 元教員のアニータ・グリックさん(70)は今週、首都ワシントンの国会議事堂周辺で友達の犬を散歩させるときに、ちょっとした解放感を味わった。米疾病対策センター(CDC)が新型コロナウイルスワクチンの接種完了者を対象に、屋外でのマスク着用を原則不要とする新たな行動指針を発表したおかげで、マスクを手首に掛けただけだったからだ。

それでもグリックさんは、他の人々と一緒にいる時にはエチケットとしてマスクを着け続けるつもりだ。「見ず知らずの人から『通りの反対側に避けるべきか。彼女はワクチンを打ったのだろうか。感染しているんじゃないか』などと思われたくない」と言う。

グリックさんは2月に接種を完了した。「マスクを着けるのは不快で、眼鏡は曇るし、何か食べただけで一日中その臭いがする」が、季節性アレルギー対策として将来もマスクの着用を続けるかもしれない。

ワクチン接種を完了した米国民の多くは今週、恐る恐るマスクを外し始めた。新型コロナのパンデミックを抑えるために1年余り続いた行動制限は大きな転換点を迎えた形だ。

米国ではマスク着用は感染防止の手段にとどまらず、政治的な見解や倫理観を表す象徴的な存在になっている。そのため科学的な行動の指針が変わってもマスク着用をやめることに抵抗を感じている人もいる。

首都ワシントンやその近隣に暮らす市民20人余りへの取材で、一部の人々がマスクを外すのをためらうさまざまな理由が明らかになった。そもそも外出時にマスクの着用義務を感じたことがない人々の言い分も見えてきた。

大学生のエマニュエル・ロングさん(19)とAJ・バーバーさん(19)は2人とも2回のワクチン接種を終えているが、今週リンカーン記念堂を訪れた際にマスクを着用していた。ロングさんは、人混みでなければ屋外でマスクは不要としたCDCの判断は早過ぎではないかと不安を感じている。新型コロナはまだ現実味のあるリスクで、特に免疫力の低い人にとっては危険性が高いからだ。

バーバーさんは「マスクを着けずに屋外に出ると裸でいるみたいに感じる」と言う。

CDCの指針見直しは、新型コロナワクチンに対する国民の信頼度を測る試金石となっている。米国ではこれまで1億4800万人以上がワクチン接種を受けたが、接種を完了した人々の間からは、数は少ないながらも接種後に感染するケースがあるためマスクなしでは不安だという声も上がっている。

バージニア州グレートフォールズで、マスクをそばに置いてコーヒーを飲んでいたアンドルー・ナスバウムさん(57)は「自分をスーパーマンだとは思っていない」と語る。ワクチン接種済みだが、最近友人の家を訪れた際に未接種の人々が集まりに参加しているのを知って不安になったという。「感染するのではないかと今でも心配だ。自分がまれなケースの1人になるかもしれない」と話した。

<根強い不信感>

首都ワシントンに住む弁護士のビビ・スミスさん(60)は、CDCが新型コロナの流行初期にマスクについての方針を180度転換したことで、CDCに対する信頼感がいくらか薄れてしまったという。CDCなど保健当局は当初、一般市民はマスクの着用は不要としていたが、その後方針を撤回。方針転換の背景に、医療従事者用マスクの不足があったとしたからだ。

スミスさんは先週、仲間たちと地域の共有庭に苗植えを行う際にマスクを着用した。全員がワクチン接種済みだったが、この地域に未接種の人が多くいることを知っているスミスさんは、危険を冒したくなかった。

「CDCの手引き変更に従って屋外でマスクをしない権利は尊重する。でもそんな人が来るのを見たら、私は通りの反対側に渡るわよ」

屋外でのマスク着用が一般的ではない郊外や地方の一部では、CDCの指針変更はうつろに響く。マスク着用の習慣がまったく広がらなかった保守的な州や郡も同じだ。

こうした地域の市民の多くは、マスク着用の義務化を個人の自由の侵害と見なし、トランプ前大統領がこうした考えを煽った。トランプ氏は、マスクの着用は自主判断に任されると述べ、保健機関の提言を無視した。

グレートフォールズに住むエリン・ラバトさん(55)はCDCが指針を変更しても生活は変わらなかった。ワクチンは接種していないが、屋外でマスクをすることはほとんどない。もっとリベラルな大都市ではマスク着用を迫る「同調圧力」があると聞いているが、自分たちの地域では感じたことはないという。

「CDCが(自分たちの考え方に)追いつくのを見てうれしい。みんなが元の生活に戻れることを願っている」と話した。

一方、都市部に住むエコノミストのトビアス・カランケさん(35)は別の意味でほっとしている。これまでは保守派の反マスク運動を支持していると見られないよう気を使っていたが、今週は堂々とマスクを着けずに公園でテニスをした。「トランプ支持者と思われたくない。でも今は『CDCの手引きを守っているだけ』と言えるからね」と話した。

(Gabriella Borter記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ビットコイン下げ止まらず7万ドル割れ、24年11月

ビジネス

米人員削減1月に急増、17年ぶり水準 UPSやアマ

ビジネス

英中銀が金利据え置き決定、5対4の僅差 今後利下げ

ワールド

中国外相、キューバ外相と会談 国家主権と安全保障を
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 4
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 10
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中