ニュース速報

ワールド

焦点:中国のインフラ建設ブームが生み出す「無用の長物」

2015年04月10日(金)17時55分

 4月10日、中国政府は昨年2月以降で1兆8000億元に上る新たなインフラ計画を承認したが、先の財政出動で建てられた空港などには、十分に使われていないものも少なくない。写真は安徽省合肥の鉄道駅建設現場。昨年3月撮影(2015年 ロイター)

[大長山島(中国) 10日 ロイター] - 中国北東部の黄海に浮かぶ大長山島。同島の東端に位置する大連長海空港は、2008年に約600万ドルをかけて改修工事が行われ、2010年に4万2000人、2015年には7万8000人の利用客が見込まれていた。

しかし民間航空当局の統計によると、2013年の利用者数は計4000人にも満たなかった。1日にわずか10人程度しか利用していない計算になる。

昨年2月以降、中国政府は景気浮揚策の一環として、少なくとも1兆8000億元(約34兆9300億円)に上る新たなインフラ計画を承認した。しかし、先の財政出動で建てられた空港や高速道路やスタジアムには、十分に使われていないものもあり、その代償が今になって重くのしかかりつつある。

建設ブームで建設会社が利益をあげた一方、地方政府は約3兆ドル(約361兆円)相当の債務を抱えることになり、地方経済の悪化を招いた。

大長山島のある遼寧省は2014年の経済成長率が5.8%となり、目標の9%を大幅に下回り、中国国内で最も成長が減速した省の1つとなった。

中国科学院の陸大道氏は「大規模建設事業の経済的合理性を真剣に議論する必要がある」と指摘。「われわれはここまで多くの高速道路や空港を本当に必要としているのか」と疑問を呈した。

政府当局者とエコノミストによる昨年11月の推計では、2009年以降の5年間で約42兆元が「非効果的な投資」によって無駄となったという。

<飛行機が飛ばない空港>

現代的な大連長海空港だが、定期便の唯一の目的地となる大連周水子国際空港の職員は、過去6カ月間運航を停止していると語った。

大連長海空港の発券カウンターは8日朝、空港職員の女性がいるのを除けば閑散としていた。それでも大理石の床は清掃員によってきれいに磨かれ、トイレも汚れ1つなかった。

女性職員はロイターに対し、飛行機は整備中だとし、「フライトがあるかどうか2─3日電話してみて」と話した。手荷物検査係の男性は居眠りをしているようだった。

この小さな空港が、人口約3万人のこの島に大きな影響を与えているようには見えない。空港周辺には小売店や飲食店ではなく、漁師の家が建ち並ぶ。住民たちは大連市への交通手段は主にフェリーだと話した。

しかし、地元メディアの報道によると大連市は今年、景気刺激策と観光促進策の一環として同空港の拡張に14億8000万元を投じ、2020年までに年間25万人が利用できるようにする計画だという。

大連市長海県の広報担当者は、空港拡張は島の発展に沿ったものであり、昨年には110万人の観光客が当地を訪れたと語った。

2012年から中国のインフラ建設をウオッチしているJキャピタル・リサーチのアナリスト、スザンナ・クローバー氏は「GDPの観点から言えば、これは決して悪いことではない」としたうえで、「ただリソースを効果的に使っているかと言えば、それは明らかに違う」と述べた。

<世界一長い海上橋>

中国の地方政府は大規模なインフラ建設や不動産開発の融資を得る際には、企業を設立する場合が多い。積み上がった債務は現在、中国経済の主要リスクと見られている。

山東省青島市には世界一長い海上橋である青島膠州湾大橋が建てられ、青海チベット高原に高速鉄道が走るようになった。中国の高速道路の利用者数に関する公式な情報はほとんどないが、2013年は通行料不足で多額の損失が出た。世界最長の鉄道網を監督する中国鉄路総公司は昨年9月、3.4兆元の債務を抱えていることを明らかにした。

ただ、当局の過剰な建設熱を鎮めるのは困難だと指摘する声もある。とりわけ、承認済みインフラ計画の約40%が位置する内陸の西部地域で、建設が加速する兆しが表れているからだ。

政府発表のデータによれば、同国で最も貧しい省の2つである貴州省と雲南省などでは、セメント生産がこれまでにない速いペースで拡大しているという。

一方、地方政府が建設ブーム後の鉄鋼とセメントの過剰生産に対処している北部では、「建設し尽くした後で何が起きるか垣間見ることができる」と、前述のJキャピタル・リサーチのクローバー氏は語る。同氏によれば、こうした傾向の初期段階が、現在は他の地域でも見られ始めたという。

(Brenda Goh記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ウォン安と不動産価格上昇、過剰流動性だけが背景では

ビジネス

12月の豪消費者信頼感指数、悲観論が再び優勢 物価

ビジネス

ベトナムEVビンファスト、対インドネシア投資拡大へ

ワールド

EUメルコスルFTAに暗雲、仏伊が最終採決延期で結
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中