ニュース速報

ビジネス

アングル:スタバがインドで低価格戦術、拡大市場で競争激化

2023年06月11日(日)07時31分

 6月7日、米コーヒーチェーン大手・スターバックスが、インドで現地企業との激しい競争に直面し、商品の小型化や低価格化、小規模な街への進出など戦略の見直しを進めている。写真はニューデリーの店舗。5月30日撮影(2023年 ロイター/Anushree Fadnavis)

[ムンバイ/ニューデリー 7日 ロイター] - 米コーヒーチェーン大手・スターバックスが、インドで現地企業との激しい競争に直面し、商品の小型化や低価格化、小規模な街への進出など戦略の見直しを進めている。

同社は紅茶好きの国、インドに真っ先に進出した海外コーヒーブランドの1つ。約11年をかけて343店舗を開設した。

これに対し、プライベートエクイティ企業が支援する現地コーヒーチェーンの「サード・ウェーブ」と「ブルートーカイ」は過去3年間で約150店舗を展開している。

スターバックス(インド)のスシャント・ダシュ最高経営責任者(CEO)は「規模が大きくなると、新たな消費者を獲得する必要がある」と述べ、新しい価格戦略によって「スタバは高い」というイメージが崩れるだろうと自信を示した。

同社は、少量のカップを好む富裕インド人層を対象とした商品刷新を行い、180ミリリットル弱のコーヒー「ピッコ」(最低価格2.24ドル)とミルクシェーク(3.33ドル)を導入した。これはインド独自の商品で、中国やシンガポール、米国では販売していない。

業界筋によると、小規模な街で店舗を増やす計画もある。

ユーロモニターの推計では、成長著しいインドの高級紅茶・コーヒー市場は3億ドル規模に達しており、毎年12%のペースで拡大が見込まれる。

小売りコンサルタント会社、サード・アイサイトのデバングシュ・ドゥッタ代表は「特大サイズは米国特有の現象だ」と指摘。「インドの消費者はバリューにこだわる。商品の量をもっと普通にして価格が手ごろになるのなら、一石二鳥だ」と語った。

インドのスターバックスは財閥企業タタ・グループとの合弁事業で、2022─23会計年度の売上高は過去最高の1億3200万ドルを記録した。

同国でスターバックスは今でも支配的な地位にあるが、首都ニューデリーやIT拠点のベンガルールでは、ライバル勢もひしめく。これらの都市ではサード・ウェーブの店舗もスターバックスと同じぐらい混み合っている。

デリーのスターバックス店舗で働くバリスタは「1日に30カップほど(サード・ウェーブに)奪われる」と話した。この店舗の販売は月に7500杯程度だが、数カ月前に近くにオープンしたサード・ウェーブも、既に同3700杯を売り上げている。

<チャイに賭ける>

インドのスターバックスは何年も前から、国内消費者の好みに合わせた商品を展開してきた。米マクドナルドやピザの米ドミノと同様、その路線を一層強化しようとしている。

スターバックスの推計では、インドの家庭でコーヒーを飲む割合は11%と、紅茶の91%に遠く及ばない。インド特有の紅茶「チャイ」は、露店で1杯10ルピー(0.12ドル)程度で売られている。

スターバックスのチャイ商品は、これまでティーシロップを使った「チャイラテ」1種類しかなかった。だが、最近になってカルダモンなどのスパイスを加えた「インディアン・インスパイアード」ティーを最低価格185ルピー(2.24ドル)で発売した。

ダシュ氏は、コーヒーを飲まずスターバックスを敬遠してきた消費者を引きつけるのが狙いだと話す。

一方、米国の飲食店コンサルタントで元スターバックス幹部のチャス・ハーマン氏は、少量で低価格の商品が導入されたことについて、値段の高さが嫌われて客足が鈍っている証拠かもしれないと指摘した。

<激しい競争>

今年5月、インド西部の都市アウランガーバードに初めてスターバックスがオープンすると、店の外に行列ができた。ユーチューブの動画を見ると、インドで第1号店ができた時を思わせる光景だ。

しかし、ライバル勢もすぐに追い付き、価格競争が始まった。

スターバックスが5月の開店時に、子どもをターゲットとした3.33ドルのミルクシェークを発売すると、サード・ウェーブも同様の商品を2.71ドルで売り出した。

ベンガルールでは、スタートアップ企業の創設者や投資家がサード・ウェーブの店舗で打ち合わせをしている。不動産分析会社CREマトリックスのデータによると、この都市で同社の店舗は40を超え、スターバックスの35店を上回った。

サード・ウェーブのスシャント・ゴエルCEOは、大都市を中心に毎年60─70店舗をオープンする計画だと語る。スターバックスが少量、低価格の商品を導入したことは「信じられないほど価格に敏感な市場」における競争への対応だ、との見方を示した。

ブルートーカイのマット・チタランジャンCEOは「スターバックスの顧客をこちらに転向させることに成功した」と話し、その理由の一端は同社より低い価格設定にあると指摘した。

スターバックスのダシュ氏は競争を意に介していないと言うが、同社は内心脅威を感じているようだ。

ベンガルールにあるショッピングモールの店舗リース契約をロイターが閲覧したところ、スターバックスは、モールのオーナーが同じフロアのスペースをサード・ウェーブやブルートーカイなど、競合する「プレミアム」ブランドに貸すことを禁じる条項を盛り込んでいた。

テクノパク・アドバイザーズの小売り担当責任者、アンクル・ビセン氏は「大都市だけでなく、小さな都市に深く入っていくしか成長の道はない」と断言した。

(M. Sriram記者、 Aditya Kalra記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中