ニュース速報

ビジネス

焦点:ECBの気候変動対応、石油大手社債の売却が近道との分析も

2023年01月20日(金)11時19分

 欧州中央銀行(ECB)の気候変動対応を巡り、シンクタンクがこのほど、同行が石油・ガス関連企業などの社債を約500億ユーロ(543億ドル)売却すれば炭素排出量を劇的に減らせるとの分析結果を示した。しかしアナリストからは、売却は市場を大きくゆがませるとの警告が発せられている。写真はフランクフルトのECB前で2022年7月撮影(2023年 ロイター/Wolfgang Rattay)

[ロンドン 13日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)の気候変動対応を巡り、シンクタンクがこのほど、同行が石油・ガス関連企業などの社債を約500億ユーロ(543億ドル)売却すれば炭素排出量を劇的に減らせるとの分析結果を示した。しかしアナリストからは、売却は市場を大きくゆがませるとの警告が発せられている。

ECBのシュナーベル専務理事は10日、ECBが保有する3450億ユーロの社債を入れ替え、環境に優しいグリーン企業の社債の比率を増やすことを検討するべきだと訴えた。ECBは本来、社債を新規購入する際にグリーン企業の比重を増やすはずだったが、インフレ退治のために新規購入を停止した上、償還分の再投資も近く減っていくためだとしている。

これを受けてECB理事会メンバーのウンシュ・ベルギー中銀総裁は早速、気候変動は政府が対処すべき問題だと反発。しかし金融市場ではECBの社債売却額を巡る推測が始まった。

シンクタンクのアンドロポセン・フィクスト・インカム・インスティテュート(AFII)は、ECBが炭素排出量上位25社までの社債483億ユーロ相当を売却するだけで、保有社債に関連する排出量を87%減らせるとの分析結果を示した。

25社の中にはシェル、トタルエナジーズ、レプソル、BPなどの石油・ガス企業が含まれる。AFIIの創設者Ulf Erlandsson氏は「ほんの数社に炭素排出が極度に集中している」と指摘した。

<反対論>

ECB保有社債に関連する炭素排出量を推計するのは難しい作業だが、AFIIは年間の二酸化炭素(CO2)排出量を総額約4億3800万トンと試算。イタリアないしフランスが2017年に排出した量を上回るとしている。

ECBは個別銘柄の保有額を開示していないため、AFIIの試算は、ECBが買い入れ適格社債を既発分の平均27%ずつ保有しているとの仮定に基づいている。

アナリストの間では、公益やエネルギーなど炭素排出量の大きい企業が発行した、いわゆる「ブラウン債」をECBが少しでも売却すれば市場にゆがみが生じるとの声も出ている。

S&Pグローバル・レーティングスの欧州・中東・アフリカ担当首席エコノミスト、シルベイン・ブロイヤー氏は、こうした売却は社債市場で「大規模な価格再設定」を引き起こし、市場の安定維持に集中するECBの姿勢に反すると指摘した。

もう1つの反対論として、現在は排出量が大きいが今後減らすことを見据え、そのための資金支援を必要としている企業を罰することになる、という主張もある。

この問題に対処するためECBは既に、企業の気候変動対策をスコア化する際、現在の成績だけでなく今後の目標や開示内容も勘案している。

ABNアムロの債券ストラテジスト、ラリッサ・デ・バロス・フリッツ氏は、ECBが少しでもブラウン債を売ってグリーン債を買えば、ECBは今後一切その社債を買わないとの認識から、売られた社債の利回りスプレッドは7─15ベーシスポイント拡大しかねないと予想した。

(Virginia Furness記者、Francesco Canepa記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、今後5年のミサイル開発継続を示唆

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中