ニュース速報

ビジネス

アングル:米中対立再燃、香港のドルペッグ制が直面するリスク

2020年06月06日(土)08時07分

6月3日、中国が香港への国家安全法制導入を決定し、米国が反発して香港に与えてきた貿易面などの特別優遇措置の廃止手続きを始め、投資家の動揺を誘っている。写真は2011年9月、香港の街頭モニターに表示された香港ドル紙幣(2020年 ロイター/Bobby Yip)

[香港 3日 ロイター] - 中国が香港への国家安全法制導入を決定し、米国が反発して香港に与えてきた貿易面などの特別優遇措置の廃止手続きを始め、投資家の動揺を誘っている。香港ドルの米ドルペッグ制が、果たして今後も維持できるのかという心配も浮上してきた。このため香港政府の複数の高官からは、投資家を安心させることを狙った発言が相次いでいる。

香港のドルペッグ制と足元で起きている事態をまとめた。

<制度の仕組み>

香港ドルは、1米ドルに対して7.75-7.85香港ドルという狭い許容変動幅が設定されている。香港金融管理局(HKMA、事実上の中央銀行)は、このレンジ内に値動きが収まるように売買を行う。HKMAが香港ドルを買えば、需給が引き締まるとともにショートポジションのコストが高まる。売却すればその逆の現象が生じる。

ペッグ制を維持するため、香港の政策金利は米国の政策金利に連動している。香港ドルがレンジ内で上下するのは、香港と米国の市場金利に差があるからだ。香港の銀行間取引金利(HIBOR)は米国の短期金利よりも高いので、国家安全法制導入に関連した資金流出懸念が出ているにもかかわらず、香港ドルは堅調を保っている。

<不安台頭の背景>

米中の緊張がエスカレートした場合、米国は香港の銀行によるドルの入手を制限し、その結果としてペッグ制が幕を下ろすのではないかとの不安が出ている。

しかし、HKMAの余偉文(エディー・ユー)総裁は2日のブログで、ペッグ制は米国が香港への優遇措置供与を定めた1992年の法律よりも9年前から存在していたと指摘。「(ペッグ制は)36年間にわたってさまざまな市場ショックを乗り切り、円滑に運営されている。香港の通貨・金融システムにとって柱の1つであり、香港に対する外交政策が切り替わったからといって、決して変更されるものではない」と断言した。

香港は、香港ドル流通量の6倍に相当する4400億米ドルの準備資産を保有している。HKMAはいざとなれば、中国人民銀行(中央銀行)に米ドルを融通してもらえる、と香港の陳茂波(ポール・チャン)財政長官は今週語った。

<ペッグ制が重要な理由>

香港は1997年に英国から中国に返還されて以来、実体経済の面で中国本土と比べて重要度が低下した半面、金融センターとしての存在価値は高まり続けている。ペッグ制が本当に脅かされることになれば、この金融センターの地位がダメージを受けかねない。

中国政府が厳格な資本規制を敷いている中にあって、香港は中国のために海外から資金を調達する上で大事な場所の1つとなっている。世界屈指の香港株式市場は、中国本土の株式・債券市場に向かう海外投資資金の最大の玄関口の役目を果たしている。香港の外為市場も世界有数の規模を誇り、米ドルの取引高は第3位だ。

中国の富裕層も香港を当てにしており、推定1兆米ドル超という香港にある個人資産のうち、半分余りは本土から移された。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中