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焦点:三菱UFJのPD離脱、透ける対日銀の構図 長期リスクも

2016年06月08日(水)18時57分

 6月8日、国債安定消化の一翼を担ってきた三菱東京UFJ銀行が7月にも「国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー、PD)」から離脱する方針が明らかになったことで、円債市場では衝撃が走った。写真は都内の日銀本店、3月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 8日 ロイター] - 国債安定消化の一翼を担ってきた三菱東京UFJ銀行が7月にも「国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー、PD)」から離脱する方針が明らかになったことで、8日の円債市場では衝撃が走った。

投資家の国債離れを象徴する出来事でもあるが、マイナス金利政策導入以降、ギクシャクする日銀と金融機関の関係も透けて見える。出口戦略時に投資家不在のリスクを懸念する声もジワリと広がり出した。

<日銀VS銀行>

財務省が国債安定消化促進などを目的に導入してから12年。これまで資格返上の動きはなかった。ここにきて三菱東京UFJ銀が動いた背景には、日銀の導入したマイナス金利政策への強い抵抗感があったのではないか、との見立てが市場ではささやかれている。

実際、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の平野信行社長は5月16日の決算発表の席上、マイナス金利政策について、経済の先行き不透明感を増していると述べていた。

金融機関は、負債にあたる預金の利回りは実質ゼロ%が下限となっているが、資産に計上される国債の利回りは、マイナス金利政策の影響で低下。「プラスのキャリー収益確保に難しさが増す中で、国債入札へ積極的に参加できるPD制度に妙味を感じなくなっている面も否定できない」(国内金融機関の関係者)とみられている。

<大手銀の存在感はすでに低下>

国債市場特別参加者は現在、国内銀行や証券など22社で構成されている。メンバーになると、財務省との意見交換ができるPD会合への参加資格を得られる。

一方で、発行予定額の4%以上の応札や1%以上(短期を除く)の落札が義務付けられている。

年間150兆円の市中発行額を前提にすると、落札義務は約1.5兆円程度。「大手行の資産運用額の大きさからすると、PD資格を返上しないと大変なことになる規模ではない」(国内金融機関)という。

財務省が発表している「国債の落札・応札順位」(2015年10月─16年3月)の落札上位10社は大手証券会社であり、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行のメガ3行は名を連ねていない。

また、日銀の「民間金融機関の資産・負債」によると、都銀の国債残高は4月末現在、48.5兆円と50兆円を割り込み、日銀の異次元緩和導入前から約60兆円減少している。

国債市場において、日銀が積極的な買い入れを進める中で、かつてメーンプレーヤーだった都銀のプレゼンスは、大きく低下している。

<警戒される「出口」のとき>

市場が注目するのは、PD資格返上の動きが、他の金融機関にも波及するかどうかだ。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニア債券ストラテジストの稲留克俊氏は、「仮に他の銀行にPD資格返上が広がって、銀行勢のシェアがゼロになるような事態になれば別だか、ここから数%程度の減少なら、内外証券会社の応札で吸収可能だろう」とみる。

同社によると、近年の銀行落札シェアは、中長期債で20%前後、超長期債で10%程度以下となっている。

しかし、長期的な観点でみると、全く別の展開が予想できる。日銀緩和の出口戦略が、かなり遠い将来としても、その時点で現実味を帯びれば、金利上昇を招きかねない。

SMBC日興証券・金融財政アナリストの末澤豪謙氏は「出口のときは問題だ。日銀が買わなくなり、民間金融機関のメンバーが減っているときに、大きなリスクを抱えることになりそうだ」と警戒感を示している。

(星裕康 編集:田巻一彦)

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