コラム

シリア難民を内戦予備軍にしないために

2015年09月17日(木)11時28分
シリア難民を内戦予備軍にしないために

ハンガリーの仮設難民キャンプで遊ぶシリアの子どもたち Marko Djurica-REUTERS

 9月5日にメルケル首相が「シリア難民を受け入れる」という感動的な決断をして1週間経って、ドイツは再び難民の流入を抑える方向に転じた。物理的に処理しきれない数の難民が押し寄せ、オーストリアとの国境に入国管理を導入せざるを得なくなったのだ。

 それは当初から十分予想されたことである。80万人という膨大な数を、果たしてどう扱うのか。難民施設は、受入れ体制は足りるのか。国内の排外感情の高まりをどう抑えるのか。難民の流入で治安が乱れたらどうするのか。受け入れると公言すれば、ますます期待を強めた人々が一層ドイツに向かうだろう。

 そもそもドイツは、西欧諸国のなかではつい最近まで移民/難民に対して門戸を閉ざしてきた国だった。イギリスやフランスのように、植民地支配の経験から移民というより「本国人」として、北アフリカやインド大陸からくる人々を受け入れてきたわけではない。ネオナチの台頭はトルコ人やクルド人からなる移民社会を脅かしてきたし、決して移民/難民にとって居心地のよい環境をドイツが提供してきたわけではない。

 第二次大戦中、ナチス・ドイツがユダヤ人を迫害し続けてきたことはよく知られているが、そのユダヤ人の哀れな姿を「回教徒」と呼んで侮蔑してきたのも、ドイツである。アウシュビッツで弱々しく身を丸めて蹲る姿が、イスラーム教徒が礼拝をしている姿に似ている、とされたからだ。

 だが、それでも一縷の望みにすがって、「受入れ」を表明しているドイツに向かうしかないのだ。道中、悪徳仲介業者に持ち金をむしり取られても、劣悪な環境で荷台に押し込められても、沈没したらすべてを失う海路よりは、経由地での嫌がらせを受け続けても、陸路をひたすら進むしかない。

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。

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