コラム

「戦争の歴史を知らない世代」の戦後70年談話を

2015年03月19日(木)17時57分

 今年は戦後70年。政府は8月15日に安倍首相談話を出すための有識者会議をつくった。戦後50年の村山談話で「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と述べた部分を変更したいのが首相の意向らしい。

 ところが有識者会議の座長代理である北岡伸一氏(国際大学学長)は「安倍首相には侵略と言ってほしい」とコメントし、産経新聞などが反発している。いまだにこんな話をしているのかとうんざりしていた矢先に、三原じゅん子議員が参議院予算委員会で「八紘一宇」を賞賛する事件が起こって驚いた。

 彼女は「八紘一宇の理念の下に世界が一つの家族のように睦み合い、助け合えるように、経済および税の仕組みを運用していくことを確認する崇高な政治的合意文書」をつくれという。麻生財務相は当惑して「こういった考え方をお持ちの方が三原先生みたいな世代におられるのに驚いた」と答弁した。

 八紘一宇という言葉は、大日本帝国がアジアの「家長」として他の国々を支配する思想である。三原氏が特に極右的な思想の持ち主とも思われないが、戦時中の歴史がメディアや教育でタブーになってきた結果、彼女(1964年生まれ)の世代では、こういう言葉の使われた文脈がわからなくなっているのだろう。

 そういう意味では歴史が一めぐりした今、あの戦争の意味を確認しておく意味はある。侵略については、北岡氏もいうように「日本の歴史研究者に聞けば99%そう言う」だろう。1928年の不戦条約以降は、他国の領土を侵犯する行為が侵略であることは国際的な常識である。

 だから1931年の満州事変以降に日本軍の起こした戦争は、明らかに国際法上の侵略である。ヨーロッパ諸国も1928年以前にアジアを植民地支配したが、そのときは侵略という概念はなかった。日本は不戦条約を批准したのだから、それを意図的に破ったことは批判されてもしかたがない。

 当時の日本政府は「八紘一宇」や「大東亜共栄圏」などの言葉を使って侵略を正当化したため、日本が最初からアジア全域を領土にしようとして戦争したと考える人が多いが、これも誤りだ。

 日本政府が公文書で「八紘一宇」を初めて使ったのは、第2次近衛文麿内閣が1940年に出した基本国策要綱で「大東亜新秩序」を打ち出したときだ。このときすでに日中戦争は始まっており、東南アジアに戦線は拡大していた。これは戦争が始まってからつけたスローガンなのだ。

 よくも悪くも、日本はアジア全体を支配しようという思想はもっていなかったし、そんな戦略もなかった。何のために戦争するのかわからないまま、ずるずると戦線を拡大したのだ。こうした「歴史問題」を騒いでいるのは、中国と韓国だけである。東南アジアでそういう話題が出ることはなく、台湾は日本に感謝している。

 日韓併合は1910年の合法的な条約なので、植民地支配と侵略を一括して謝罪した村山談話はおかしいが、それを今さら変更しても中韓の反発をまねくだけだろう。むしろ三原氏のような「戦争の歴史を知らない世代」が歴史を勉強し、戦後70年の談話を出してはどうだろうか。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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