<カンヌ国際映画祭で注目された男女の監督ユニット、ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユの長編デビュー作は、これまで描かれたフランスのバンリュー(郊外)からまったく異なる世界を切り拓いた>

フランスのバンリュー(郊外)を舞台にした映画といえば、マチュー・カソヴィッツの『憎しみ』(95)を筆頭に、セリーヌ・シアマの『ガールフッド』(14)、ジャック・オーディアールの『ディーパンの闘い』(15)、ウーダ・ベニャミナの『ディヴァイン』(16)、ラジ・リの『レ・ミゼラブル』(19)など、貧困や差別、暴力、麻薬がはびこる荒廃した団地におけるサバイバルや成長を描く作品が思い出される。

カンヌ国際映画祭で注目された男女の監督ユニット、ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユの長編デビュー作『GAGARINE/ガガーリン』は、そんなバンリューからまったく異なる世界を切り拓く。

舞台はパリ郊外、実在したガガーリン団地

その舞台は実在したガガーリン団地。60年代初頭、"赤いバンリュー"と呼ばれるパリ南東のイヴリー=シュル=セーヌに建設されたこの公営住宅は、名前の由来である旧ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンも訪れ、フランス共産党の成功の象徴となった。だが、80年代以降、産業の空洞化と移民の流入によって次第に衰退し、パリ・オリンピックを5年後に控えた2019年に老朽化した団地が取り壊された。

リアタール&トルイユは、解体される前の団地で撮影を行い、ユーリと名づけられた少年を主人公に据え、ガガーリンとも結びつくフィクションを盛り込み、本作を完成させた。老朽化したガガーリン団地にはかねてから解体の噂が流れている。宇宙飛行士に憧れる16歳のユーリは、母親が恋人のところに行ってしまったため、8階の部屋にひとりで暮らし、古株の女性ファリが面倒を見ている。そんな彼は、思い出が詰まった団地を守るため、親友フサームや彼が密かに想いを寄せるロマの少女ディアナの協力を得て、団地の修繕に奔走するが、調査の結果、解体されることが正式に決定してしまう。

住民たちが次々に立ち退き、母親にも見捨てられたユーリは、深い悲しみのなかで途方もないミッションの実行を決意する。それは空っぽになった無人の団地を"宇宙船"に改造し、その場所を守り抜くことだった。そして団地にユーリを残したまま、爆破解体の瞬間が刻一刻と迫る。

ドキュメンタリーとフィクションが結びつく独自のスタイル

リアタール&トルイユは、カメラワーク、光や色彩、ガラクタを掻き集めたアナログ的なビジュアルなどを駆使して、老朽化した団地を宇宙船に重ねていく。しかしこれは、ガガーリン団地の解体を知った彼らが、そこに駆けつけて撮影を行い、ファンタジーに仕立て上げたというような単純な作品ではない。ふたりのプロフィール、本作の前に撮った短編、本作以後に進めている企画などを知れば、彼らが明確なビジョンを持ち、時間をかけて独自のスタイルを確立し、バンリューをとらえていることがわかるだろう。

ペルー出身のリアタールとコロンビア出身のトルイユは、ボルドー政治学院でともに学び、緊密に連携するようになった。その後、彼らはそれぞれに研究の一環として南米や中東を訪れ、都市問題を中心としたプロジェクトに関わり、ドキュメンタリー制作を学ぶなどして、映画制作へと踏み出した。

そんな彼らの関心や感性には、ふたつの要素が絡み合っている。ひとつは、急速な変貌を遂げる都市とそこに生きる人々への関心。もうひとつは、ともに南米出身で、マジックリアリズムに深く傾倒していることだ。そうした関心や感性から、ドキュメンタリーとフィクションが結びつく独自のスタイルが確立されていく。

ふたりがガガーリン団地を知る経緯については、プレスのインタビューでリアタールが以下のように説明している。


「2014年、私たちは映画を撮るためにパリにやってきた。その頃、建築士の友人たちが、ガガーリン団地の取り壊しに関する調査をしていた。友人は私たちに、ガガーリン団地に住む人々の姿を描いた映像作品を撮ってほしいと依頼してきたの」

ふたりのそれまでの研究がなければ、そんな機会が訪れることもなかっただろう。それをきっかけに彼らは、団地の住人と関係を築き、3本の短編を発表するが、重要なのは、賞も受賞した1作目と3作目だろう。

バンリューに新たな光をあて、鮮やかに描き出した