<邪悪なヘビのイメージを一新。ディズニーは「世界」を意識した作品づくりを始めた──>

最初の冒険から9年、『ズートピア(Zootopia)』のドリームチームが帰ってきた。より良い世界を夢見る元気ウサギのジュディとチャーミングなキツネのニックの警官コンビは今回、爬虫類のミステリーに挑む。

2025年11月末にアメリカはじめ各国で公開され、たちまち世界中のハートをわしづかみにした『ズートピア2(Zootopia 2)』(日本では12月5日公開)。世界最大級の映画市場を持つ中国でも11月末に封切られ、外国のアニメ映画では史上最高の興行成績を記録した。

「ズートピア2」日本版予告編

この大ヒットはエンターテインメント界にとどまらない意義を持つ。多様な文化圏の観客にアピールするよう文化的シンボルを再創造するディズニーの戦略が奏功したからだ。

『ズートピア2』の物語の中心を成すのは意外なヒーロー──青いウロコのヘビ、ゲイリーだ。彼は親族の汚名をそそぎ、爬虫類が他の動物と共生できる世界を実現しようと使命感に燃えている。

ディズニーの最高クリエーティブ責任者(CCO)でこのアニメの共同監督を務めたジャレド・ブッシュによると、ヘビのキャラクターを登場させたのは、中国の十二支(26年の春節までは巳年)に対するオマージュだという。


イブを誘惑した旧約聖書のヘビからギリシャ神話に登場するメドゥーサの髪にうごめく毒ヘビまで、西洋ではヘビは長年、欺瞞や誘惑を象徴する生き物と見なされてきた。

こうしたイメージはハリウッドの映画にも反映されている。『ジャングル・ブック』(1967年)の催眠術を使うカーも、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(81年)でインディ・ジョーンズを脅かす大量のヘビも、映画が描くヘビはいつだって冷血で薄気味悪い邪悪な生き物だ。

動物の描き方を調査したメディア研究でも、欧米のナラティブではヘビはほぼ常に悪者扱いされることが分かっている。だからディズニーが『ズートピア2』ではヘビが重要な役割を演じると発表した時は、多くのファンは腹黒い敵役のヘビが出てくるものと思っただろう。

ところが恐ろしい毒ヘビと見られがちなゲイリーは、実は驚くほど優しい心根の持ち主だった。

誤解が生む新たな視点

ズートピアはさまざまな動物が共生する都市だが、爬虫類は完全に締め出されてきた。ゲイリーもこの街ではよそ者だ。彼は過去に起きた犯罪の真相を暴くため、そして偏見と戦うためにズートピアにやって来た。

ヘビに対する偏見が現実世界のマイノリティーに対する偏見を表していることは容易に見て取れる。

中国の文化的な伝統では、ヘビは神聖な動物と見なされてきた。中国の創世神話に登場する人類の始祖、伏羲と女媧は体の一部がヘビになっている。絡み合う2人の姿は多産と均衡と調和の象徴だ。

伏羲と女媧の図
伏羲と女媧の図 PICTURES FROM HISTORYーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

ディズニーは中国の文化的シンボルをさまざまな形で用いている。『ズートピア2』でゲイリーとその家族がジュディをハグする場面は、中国北部に伝わる幸運を招くモチーフ「蛇盤兎」(ウサギに巻き付くヘビ)を連想させる。

中国の観客はこうした場面を見て、作為的ではなく、ごく自然に、自分たちの文化に敬意が払われていると感じるだろう。

ディズニーは以前からグローカル化」戦略を採用してきた。これはグローバル化とローカル化を合わせた造語で、地球規模の視野を持ちつつ、地域の特色を大切にすることを意味する。この戦略の下で、ディズニーは多様な市場に合わせてキャラクターやシンボルをデザインしてきた。

『ズートピア2』にはオーストラリアの観客に受ける趣向もある。自然保護活動家のロバート・アーウィンがコアラのロバート・ファーウィンの声を担当し、お澄まし顔のクオッカワラビーがパートナーシップセラピーを施す。

作品中に登場するニュースキャスターには公開される地域によって異なる動物が起用されている。北米はじめ大半の地域ではヘラジカ、中国ではパンダ、オーストラリアではコアラという具合だ。

ディズニーの製作チームは上映期間が午年にもかかることを意識していたらしい。その証拠にアクション映画のヒーローから政治家に転身したズートピアの新市長は馬だ。

午年を意識したズートピアの新市長
午年を意識したズートピアの新市長 ©2025 DISNEY ENTERPRISES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

欧米の伝説や物語で長く恐れられていたヘビのイメージを一新した『ズートピア2』。この作品は、ハリウッド映画がもはや一方通行の文化輸出ではないこと、またハリウッドには多様な文化が出合う創造の場が生まれつつあることを示している。

問題は、こうした作品が異文化間の相互理解を促すかどうか、だ。

『ズートピア2』でコンビの危機を迎えたジュディとニックのように「異種間」(言い換えれば「異文化間」)の対話は多くの誤解を生みかねない。裏を返せば、だからこそ新たな視点をもたらし理解を深める源ともなり得るのだ。

The Conversation

Yanyan Hong, PhD in Media and Film Studies, University of Adelaide

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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