ロシア民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こし、一時モスクワに進軍を開始したことで、米政府内には昔の恐怖がよみがえった。それはロシア国内が大混乱に陥った際、保有されている核兵器がどうなってしまうかという問題だ。

今回はワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が部隊に対し、駐屯地への撤退を命令したため、大規模な内戦に発展するのではないかとの心配はとりあえず払しょくされた。しかし、一連の騒動からは、プーチン大統領の権力基盤が弱まっている様子がうかがえる。

ロシアの路上を戦車が行き交う映像で思い出されるのは、1991年のソ連時代に共産党強硬派が起こしたクーデター未遂事件だ。当時、懸念されたのが「ソ連の核兵器が果たして安全に保たれているのか」「悪意を抱く軍の指揮官が弾頭を盗み出すのではないか」という点だった、と複数の元米情報当局者は話す。

元米中央情報局(CIA)高官で欧州とユーラシアの極秘活動を監督していたマーク・ポリメロプロス氏は「情報機関の世界では(ロシアによる)核兵器の備蓄にとてつもない注目が集まるだろう」と述べた。

別の元CIA高官でモスクワ駐在部門のトップだったダニエル・ホフマン氏は「核兵器を誰が管理しているのか知りたい。テロリストや(チェチェン共和国首長のラムザン)カディロフ氏のような悪漢が背後にいて、利用しようとするかもしれないとの不安があるからだ」と解説した。

カディロフ氏は、ワグネルが掌握した後に放棄したロストフの軍事施設に向けてチェチェンの部隊を派遣し、反乱鎮圧を支援する構えを見せている。

ロシアの戦略核および戦術核の保管問題を巡る差し迫った脅威が、なくなったことは間違いない。ロシア大統領府のペスコフ報道官も、ワグネルの撤退を促した政治的な取引は、混乱と流血を避けるのが狙いだったと述べた。

米国家安全保障会議(NSC)の広報担当者は、ロイターからの問い合わせに対して「ロシアの核戦力部隊の配置に変化は見られない。ロシアは核戦力を適切に指揮、管理、保管し、戦略的な安定性を損なう行動を絶対にしないという特別な責任を負っている」と回答している。

「AIに使われるか、AIを従えるか」 一橋大学が問う、エージェント時代の「次世代エグゼクティブ」の条件
「AIに使われるか、AIを従えるか」 一橋大学が問う、エージェント時代の「次世代エグゼクティブ」の条件
ならず者に奪われる危険