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RCEPに署名する会合はベトナムのハノイを中心にオンライン形式で行われた NGUYEN HUY KHAM-REUTERS

だがインドがIT関連の輸出を進めれば、同時に技術者も国境を越えていく。そのためインドのIT企業は特に中国に対し、商用ビザの規則や現地国での納税義務について譲歩を求めてきた。

こうした問題には国の移民政策に関する論争が絡むため、交渉は一筋縄ではいかないことが多い。RCEPはサービス業の自由化を一部約束したが、加盟国は技術者の「輸出」問題に関しては譲歩しておらず、この点がインドには大きなネックとなっていた。

さらにインドのサービス業界はとりわけ保護貿易志向が強く、市場を開放する段階にはまだない。その一例が電子商取引で、インドの政策の枠組みや規制環境が未整備であることが市場開放の障壁になっている。

アジアから米欧にシフト

RCEP加盟諸国は、サービス輸出国としての躍進が著しい。例えば中国は、インフラや物流、テクノロジーの関連部門で輸出額を大きく伸ばしている。

前出のWTOのデータによると、中国は2018年にサービス輸出国として最も急成長し、世界5位になった。WTOが分析しているように、インドにはRCEP加盟に強く賛成する声は少ないが、声高に反対する業界や部門は多い。

インドがRCEP交渉を離脱した理由は、経済的な利益だけでなく、貿易戦略や地政学的な要因も大きいかもしれない。モディ政権は自由貿易協定への取り組みを見直し、重点をアジアから米欧に切り替えた。この戦略は、RCEP離脱によってインドは多国間貿易協定から孤立するという見方に対抗するものだ。

だが過去の経験が示すように、アメリカとFTAを結ぼうとしても容易なことではない。米政府が貿易協定で一般的に求める基準は、RCEPのレベルをはるかにしのぐ。特に「投資家対国家」の紛争や知的財産権などの分野に関しては要求が厳しい。

RCEPに参加せず独立独歩の路線を取れば、将来的に有利な立場でFTAの交渉に臨めるのではないかと、インド政府はにらんだ。だが、そのシナリオが実現する可能性は低い。中国のWTO加盟が示したように、既存の協定に参加するには、より大きな譲歩を迫られる。さらにインドはRCEPからの撤退により、電子商取引などの貿易分野で新たに持ち上がる問題の解決に向けた規範作りに発言する機会も失った。

インドが経済強国になるためには、政策と規制環境を改め、今までの協定を見直して再交渉する必要がある。新しい協定に参加しないことがその答えではない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年12月8日号掲載>

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