スーパーマーケットの冷蔵設備へのハッキング、暗号資産(仮想通貨)交換所バイナンスでの過去最大の盗難、ウェブサイトで広く使われているプログラミング言語の欠陥──。世界の企業にサイバー攻撃が押し寄せている。企業幹部らは、人工知能(AI)がこうした脅威を加速させ、手口を巧妙にしていると指摘する。そしてこうした脅威に対抗するためにAIを活用する。サイバー攻撃を巡り、攻撃する側も、受ける側も「AI武装」する構図だ。

公開された脆弱性を登録する国際的なリスト「共通脆弱性識別子(CVE)」によると、2026年第3・四半期に報告されたソフトウエアやコンピューターシステムのセキュリティー上の欠陥は約3万7000件だった。前年同期の3倍に当たる。

顧客700万を抱えるドイツのウェブホスティング会社イオノスのマルクス・ノガ最高技術責任者(CTO)は、「かつては数カ月おきだった規模の事象が、毎週、あるいは数日おきに起きている」と話す。

攻撃の急増でIT部門の負担は増している。職員はソフトウエアの脆弱性を修正するため、夜通しで作業しなければならない。

旅行予約サイト、ブッキング・ドットコムのマーニー・ウィルキング最高セキュリティー責任者(CSO)は「終わりのないいたちごっこ」と表現する。「一つ経路を封じても、修正措置が終わる前に、攻撃者たちはもう次の経路に移っている」と述べた。

「午前9時から午後5時までの勤務時間帯のチームにできることには限界があり、それではもはや不十分だ」とイオノスのノガ氏は指摘する。

企業の間では、負担を軽減しようと、AIを活用したセキュリティーツールを導入するなど対策への投資を増やす動きが出ている。

ブッキング・ドットコムでは現在、数百人のエンジニアがAIを活用した防御システムを構築している。

イオノスは、7月に脆弱性が急増したことを受けてセキュリティー対策を見直した。AIを使った監視システムを導入して脅威を探知しているほか、AI支援ツールでシステムの修正プログラムを24時間体制で適用している。

<サイバー脅威が防御投資を後押し>

欧州のスーパーマーケットはこの3週間に2回標的となった。冷蔵・冷凍設備の温度が上げられ、数百万ドル相当の食品を廃棄せざるを得なくなった。

今週、欧州約12カ国で冷蔵設備が被害を受けた2回目のサイバー攻撃。オランダの食品小売り大手アホールド・デレーズも、ベルギーとルクセンブルクの一部店舗が被害に遭った。同社にとってはこの1カ月で2回目のハッキング被害。1回目は10月中旬で、不正侵入を検知した後、ウェブサイトとアプリを1週間停止した。2億ユーロ(2億2500万ドル)を超える売上高の損失が出て、業績見通しを下方修正した。

ヨランダ・ポーツベイル最高財務責任者(CFO)は「われわれは新たな現実に適応しつつある」と語り、規模の小さい企業は特に攻撃を受けやすいと指摘した。一方で、AIは防御の手段にもなるとも指摘し「AIのおかげで、攻撃の検知や復旧も、これまでよりはるかに速くできるようになった」と述べた。

63億ドル相当の暗号資産をハッカーに盗まれたバイナンスは、AIで強化した検知システムへの投資を増やすと表明した。欧州有数の規模を持つオランダのロッテルダム港はAIを活用した「サイバーシールド」の構築を進めている。シーメンスは、防御目的のセキュリティー向けに先進的なAIモデルを試験している。

マッキンゼーは、外部ベンダーが販売するサイバーセキュリティー製品・サービスの世界市場について、25年の2230億ドルから29年までに3460億ドルに拡大すると予測する。

<AIツールでハッキングを再現>

サイバーセキュリティー企業クラロティのフィールドCTO、ショーン・タフツ氏は、冷蔵設備への攻撃は企業に対するAIの圧力を示していると指摘した。脆弱性が見つかったら、すぐにシステムを修正しなければならなくなっているという。

クラロティは攻撃が始まる数カ月前の8月、冷蔵設備の制御装置の弱点についての調査結果を公表していた。

10月11日にフランスの店舗が最初の攻撃を受けた後、クラロティの研究者らは誰でも使えるAIツールで欠陥を再現し、試験用の装置を乗っ取ることに成功した。タフツ氏によると「6ドルと28分で再現できた」という。

10月21日には、多くのウェブサイトの基盤となっているプログラミング言語「PHP」で、AIが見つけた二つの欠陥が公表された。これを受け、東京からヘルシンキまで世界各地の政府や企業が、予防措置としてウェブサイトを停止した。

米インターネットインフラ企業のクラウドフレアによると、PHPの欠陥を悪用しようとする試みは、公表から数時間で数千件から数百万件に急増した。同社はロイターに対し、AIが見つけるバグが今後さらなる混乱を招く可能性があると述べた。

米食品・飲料大手クラフト・ハインツのスティーブ・カヒレーン最高経営責任者(CEO)は「脅威は現実のもので、拡大している」と語った。サイバーセキュリティーは「昨日より今日の方が重要で、明日はさらに重要になる」とも述べた。

スイスの建材大手ホルシムのシュテフェン・キンドラーCFOも同じような見方を示した。同社は10月21日午後9時半(日本時間22日午前4時半)ごろにウェブサイトを停止してPHPの修正プログラムを適用し、同日の午前0時前にサービスを復旧させた。

キンドラー氏は「われわれはもっと賢くならなければならない。双方とも重武装している。双方がAIを使っており、その競争は続いている」と語った。

[ロイター]
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