今から30年以上前、バルト諸国の指導者らが、大胆だが当然とも思える構想を打ち出した。エストニア、ラトビア、リトアニアの首都を、特急列車で結ぶという。
実現までに長い年月を要したが、「レール・バルティカ」の第1段階の工事は2030年に完了する予定で、その野心は想像以上に壮大だった。最終的にはバルト諸国と中央ヨーロッパを結び、ポーランドのワルシャワを経由してドイツのベルリンまで直通列車が走る。5つの首都を結ぶだけではない。エストニアの首都タリンとフィンランドの首都ヘルシンキを結ぶフェリーにも接続する。
ここから2つのことが分かる。まずヨーロッパの鉄道旅行は、いま黄金期を迎えている。利用者は驚くほど多く、進行中の整備が完了すれば鉄道網はさらに一体化し、速く、便利になる。
第2に、鉄道は政治と切り離せない。帝政ロシア、そして後のソ連の支配下で、バルト3国の鉄道は互いを南北に結ぶ形ではなく、ロシアの支配地域へ向かって敷設された。
レール・バルティカが目指すのは、その逆だ。かつてロシアに支配された国々をヨーロッパの自由な国々と結び、西側の貿易相手国とのつながりを強める。必要な場合にこの地域へNATOの部隊や装備を輸送する能力も確保する。「ロシアは手を出すな」という断固たる意思表示だ。
しかしバルト諸国が加わろうとしているのが、統一されたヨーロッパの鉄道システムだというわけではない。大部分は各国の鉄道網のパッチワークだ。国境をまたぐ路線について隣国同士の協力はたいてい円滑だが、場当たり的なケースもあり、全く協力が進んでいない例もある。
大陸の広い範囲で、何度も国境検査を受けたり列車を乗り換えたりせず、国から国へ移動できるようになった。それでも各国の鉄道に個々の歴史や事情、あるいは国民性を映す特徴が残っていることは間違いない。