Laurie Chen Eduardo Baptista

[北京 2日 ロイター] - 中国企業は長年、走ったり踊ったり、宙返りしたりする人型ロボットの開発を進めてきた。いまは、より幅広い業務で役立つ人工知能(AI)開発に資金を投じている。焦点は、ロボットを幅広い業務で使えるようにする「頭脳」としてのAI開発だ。

急拡大しているのは「エンボディドAI(身体を持つAI)」向けの投資だ。エンボディドAIとは、ロボットが周囲の環境を理解するとともに未知の作業を学習し、個別にプログラムし直さなくても状況に応じて行動できるようにするソフトウエア分野を指す。

調査会社IT桔子(ITjuzi)によると、中国のエンボディドAI関連企業は2026年上半期に322件の資金調達を実施し、調達額は総額935億元(約2兆527億円)と前年同期の約5倍に達した。資金はロボットメーカーだけでなく、ロボット向け知能ソフトウエアを専門に開発する企業にも流れ始めている。

上海の技術コンサルティング会社禅源実験室(ZenGen Labs)の創業者ダーモット・マクグラス氏は「競争激化によってハードウエア価格は下落している。利益の源泉はハードではなく頭脳になるとの認識が広がっている」と語る。

新たに台頭してきたエンボディドAIは、米中ハイテク競争の新たな主戦場にもなっている。米国企業は高度なロボットAIシステムで先行する一方、中国企業は強力な製造基盤と豊富な現場データを武器に追い上げを図る構図だ。ロイターが中国のロボット企業5社の経営陣や業界関係者に取材したところ、多くがこうした見方を示した。

AIと機械を最も効果的に融合できた国は、工場や物流現場の自動化で大きな優位性を獲得し、生産性や世界のロボット市場の勢力図を塗り替えることができる。霊心智能(Spirit AI)の共同創業者、ガオ・ヤン氏は「ロボット技術全体の中で、頭脳が依然として最も弱い部分だ」と指摘する。

<「知能」を巡る競争>

米国では、フィジカル・インテリジェンス、スキルドAI、ジェネラリストなどのスタートアップが、再学習を最小限に抑えながらロボットに多様な技能を習得させるソフトウエアを開発している。

ジェネラリストによれば、同社の「GEN-1.5」モデルは3-12秒程度の実演映像を見るだけで、単純作業の約60%を遂行できる。

中国の逐際動力(X Square)は、1本の人間の作業動画だけでロボットが物体操作を学習し、個別に再訓練する必要がないことを示す研究成果を発表している。

ロボット業界コンサルタントのゲオルグ・シュティーラー氏は「米国の先端研究機関は、ロボットが技能を習得・再利用する速度において高い基準を打ち立てている」と評価する一方、中国の有力スタートアップも十分に競争力があると認めている。

米国企業は先端AI研究や高性能半導体へのアクセスで優位にある。しかし中国企業は、ロボットメーカーや産業ユーザーと密接に連携しながら、実環境でソフトウエアを改良できる強みを持つ。

逐際動力、銀河通用(Galaxea)、霊心智能などのAI開発企業は、それぞれ企業評価額が約30億ドルに達している。逐際動力の共同創業者で最高執行責任者(COO)を務めるヤン・キアン氏は「ロボットを、コードに従って動く段階から、常識に基づいて判断し動く段階へ移行させたい」と語る。

既存のロボットメーカーもAI投資を強化している。香港上場の優必選科技(UBTech)は、AIモデル開発を統括するチーフサイエンティストの募集を開始し、株式報酬などを含め最大1億2400万元(1800万ドル)の待遇を提示した。また世界有数の人型ロボットメーカー宇樹科技(ユニツリー・ロボティクス)は、物体の挙動予測AIを開発する約30人の研究チームを抱えているという。

<学習データ獲得でしのぎ>

チャットボットがインターネット上の膨大なテキストデータから学習するのに対し、ロボットは「物をつかむ」「柔らかいケーブルを扱う」といった実世界での動作データを必要とする。

中国企業は、さまざまな方法でデータを集めている。霊心智能は約1000人を雇用し、日常作業や工業作業のデータを収集。愛仕機器人(ACE Robotics)は、ウエアラブルセンサーを用いて店舗やホテル従業員の動作や握力データを取得している。

アリババグループ傘下のアント・グループのロボット部門、螞蟻機器人(Robbyant)は、人間が操作したロボットの動作5万時間分を含む計16万時間分のデータでモデルを学習させたと明らかにした。17ブランドの20種類のロボット構成でもソフトウエアを学習させており、異なる機体で同じAIを使えるようにする狙いがある。

徳思力(DexForce)はコンピューター上の仮想環境を利用してロボットを訓練する手法を採用している。同社によれば、一部の工業作業であれば6-8時間で現場導入準備が完了し、特定の精密作業では99.9%超の成功率を達成した。

ただし、仮想空間だけで現実世界を完全に再現することはできない。空間知能企業万有核(Manycore Tech)のジェリー・ワン氏は「シミュレーションには限界がある」と指摘する。

逐際動力のヤン氏も「データの量より質が重要で、多様性よりもさらに大事だ」と強調した。

もっとも、中国のロボットAI企業には逆風もある。米国の輸出規制によるエヌビディアの先端半導体不足に加え、企業価値の過大評価や業界の過密化への懸念から新規株式公開(IPO)市場も引き締まっている。

ジュー・ミンシュエン氏が率いる玖隠科技(JoyIn Technology)のロボットAI「エーテル」開発チームは「ロボットが高性能化するほど、先端半導体不足は中国エンボディドAI産業にとって深刻な問題になる」と警鐘を鳴らしている。

<学習から実運用へ>

各社は既に、AIが未知の問題に対応できるかどうかの検証を始めている。ジュー氏によれば、ある実験ではロボットが手の届かない戸棚にヘッドホンを入れようとして何度も失敗した。そこで人間が同じ作業を行う動画を見せたところ、ロボットは箱を棚の近くまで押して足場代わりにし、その上に乗ろうと試みたという。

ジュー氏は「ロボットは毎回異なる行動を試しながら解決策を探索していた」と語る。

ただ、実際の導入現場では試行錯誤の余地は小さい。寧徳時代新能源科技(CATL)は中州工場で霊心智能のロボットが電池パックの検査工程で柔軟な配線を接続し、差し込み成功率99%超を達成していると説明する。

螞蟻機器人は上海市内の2つの薬局でロボットが受注処理を担当し、人間スタッフが最終確認を行っていると明らかにした。

最終目標は新しい仕事を大規模な再調整なしで覚えられる汎用AIの実現だ。そのためには異なる顧客や職場環境でも同じAIが高い性能を発揮できる必要があり、さらに巨大なモデルと膨大な計算資源が求められる。

中国企業はモデルの効率化、合成データ、シミュレーションの活用に加え、華為技術(ファーウェイ)など国内半導体企業による代替チップ開発にも期待を寄せている。だが、それらがエヌビディアの製品不足をどこまで補えるかは未知数だ。

宇樹科技の創業者、王興興氏は今月、同社がオープンAIのモデル「GPT-6」をロボットに適用し、有望な結果を得たと明かした。さらに同氏は、来年にも登場するとみられる「GPT-7」がロボット業界にとって「チャットGPTの転機」になる可能性があるとの見方を示した。つまり22年のチャットGPT登場で生成AIが一気に普及したような、技術の飛躍的進歩と社会的な認知の拡大が再び起きるという。

王氏によれば、その転換点とは「音声指示だけで、未知の環境の80%において、作業の80%を完了できる」水準に達した時だ。

もっとも、シュティーラー氏は慎重な見方を崩さない。「デモ環境で広範な未知の作業をこなせる日が近いという楽観論には一理ある」と語りながらも「顧客が安心して業務を任せられるレベルになるまでには、数カ月ではなく数年単位の時間が必要だろう」と慎重な見方を示した。

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