Alessandro Parodi Joanna Plucinska
[ロワシー・アン・フランス 27日 ロイター] - フランス首都パリ近郊のシャルル・ドゴール空港。黒く洗練された高級車ポルシェ・カイエンが滑走路脇を静かに走り、エールフランスのボーイング777へ向かう特別な乗客を送り届ける。
航空会社各社が超富裕層の顧客獲得に注ぐ努力が見て取れる光景だ。背景にあるのは燃料価格の高騰だ。燃料費の上昇は航空会社の利益率を圧迫し、運賃値上げによって価格に敏感なエコノミークラス利用者の需要が鈍化しているため、各社はより利益率の高いプレミアム顧客の取り込みを重視するようになっている。
エールフランスは業界でも最も高額な部類に入るというファーストクラス「ラ・プルミエール」の強化に向け、10億ユーロ(1760億円)を投資してサービスの刷新を進めている。ラ・プルミエールの利用客は空港で専用エントランスを利用できるほか、人目につかない専用保安検査を受けられる。搭乗前にはスパを備えたラウンジで、キャビアやシャンパンを楽しみながら出発を待つ。高級車で移動して搭乗すれば、機内ではプライベートスイートで過ごしてデザイナーズパジャマを着用し、ミシュランの星付きシェフが監修した料理を味わう。
エールフランスの顧客担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、ファビアン・ペルー氏はロイターに「より高級志向のサービスへ進化させたかった。この新しい客室の開発には過去5年を費やし、顧客の期待を最大限満たすため細部まで徹底的にこだわった。プライベートジェット機のような空間を実現したかった」と語った。
同氏によると、エールフランスはラウンジや客室、機内Wi-Fiの改善に5年間で10億ユーロを投じるほか、機材更新費用として年間約10億ユーロを支出する。
<格差拡大の象徴>
ファーストクラスの利用者とエコノミークラスの利用者との間で広がるサービス格差は、社会全体で進む格差拡大を反映している。
米国とイスラエルによる対イラン戦争に関連してエネルギー価格が急上昇。それに伴うインフレが各国の生活費上昇を招き、フランスなどでは生活費高騰への不満から社会不安も広がる。一方で人工知能(AI)ブームを背景に株高が進み、新たな超富裕層が誕生する構図がある。
航空業界アナリストのジョン・ストリックランド氏は、航空会社が全体の座席数を減らしてでもプレミアム席を増やそうとしていると分析。「航空会社がプレミアム分野への投資を進めるのは当然だ。その市場は大きく成長している。総座席数を減らしてでも客室構成を変更する動きは理解できる」と話す。
国際航空運送協会(IATA)が6月に公表した報告書によると、航空需要全体の伸びは鈍化しており、全クラスを合わせた旅客需要の伸び率は今年が2.1%と、前年の5.3%を大きく下回ると予想される。
エールフランスはファーストクラス単独の収益を公表していないが、ファーストクラスとビジネスクラスを合わせた収益は、2025年に前年比28.1%増、24年には同26.9%増と大きく拡大した。エコノミークラスの収益はほぼ横ばいだった。
同社のファーストクラス運賃は、パリ-ニューヨーク往復で最低1万4000ドル(220万円)弱。ベン・スミス最高経営責任者(CEO)はロイターに「地上でも機内でも多額の投資を行った。この客室とサービス水準は比類がない」と自信を示した。
実際、世界的に知名度の高い航空会社評価機関「スカイトラックス」のワールド・エアライン・アワードでは、エールフランスが今年、世界最高のファーストクラス航空会社に選ばれている。
<匿名性という付加価値>
ファーストクラス利用者1人当たりに提供される空間やサービスは極めて大きく、その分だけ二酸化炭素排出量も多くなる。ただしプライベートジェット機を利用する場合と比べれば環境負荷は低い。
エールフランスは、こうしたサービスが芸能人や政財界などの要人(VIP)にとっても魅力的だとしている。私人が所有するプライベート機は登録情報が公開され、航空機追跡サイトで行動が把握される場合があるが、定期便のファーストクラスなら匿名性を保ちやすいためだ。
そしてこうした高級路線へのシフトは、エールフランスだけの動きではない。
アジアではエア・インディアが一部国際線で新型客室を導入。IAG傘下のブリティッシュ・エアウェイズも今月、A380の改装計画を発表し、総座席数を減らしながらプレミアム顧客向けサービスを強化する方針を打ち出した。
LATAM航空グループのロベルト・アルボCEOは今月、現在の経済混乱を経て業界再編が進むとの見方を示した上で「強力なプレミアム戦略を持つ航空会社が最終的に最も強く生き残るだろう」と語った。
米国でも、これまで低運賃を売りにしてきたサウスウエスト航空、フロンティア航空、ジェットブルー航空、アレジアント航空などが、より高価格帯の市場へ進出し始めている。
デルタ航空もまた豊かな層と困窮する層の二極化を表す「K字型経済」と呼ばれる状況を見据え、富裕層向けサービスの強化を進めている。
エールフランスのペルー氏は、イランとの戦争が長期化すれば富裕層であっても費用に敏感になる可能性があると認めつつ、それでもエールフランスは高級路線を変更する考えはないという。
航空会社の総コストの30-40%を占めるジェット燃料価格は、年初から2倍以上に上昇している。ペルー氏は「この戦争の最も大きな影響は燃料費の急騰であり、われわれも確実にその影響を受けている。しかしこの厳しい環境の中でも、より高級なサービスへシフトする戦略を維持していく」と語った。