Miho Uranaka Anton Bridge
[東京 28日 ロイター] - 日本のM&A(合併・買収)市場でプライベートエクイティ(PE)ファンドが成長を求める事業会社と組んで買収に臨む動きが広がりつつある。資金力を持つファンドと事業基盤を持つ企業が組んでシナジー(相乗効果)を示しながら買収を進める手法は新たな潮流になる可能性も秘める。争奪戦が続くカカクコムを巡っても、5月に公開買い付け(TOB)を開始した欧州系投資ファンドEQTに対し、米投資ファンドのベイン・キャピタルとLINEヤフー(LY)陣営が対抗提案で追い上げている。
<どれだけ事業価値を高められるか>
ファンドと事業会社による買収提案では、光通信がMBKパートナーズ、NECキャピタルソリューション系ファンドと組み、レオパレス21の非公開化に向けたTOBも実施中だ。
事業会社の参加が注目される最大の理由は、シナジーを具体的に価格へ織り込めることにある。ファンド単独では見積もりにくい再編効果や成長余地を、事業会社は自社の事業として評価できる。その分だけ提示できる価格も上がる可能性がある。
カカクコムの争奪戦では、この構図が鮮明になっている。関係者によると、「価格.com」「食べログ」「求人ボックス」の3事業に、LYの送客力とグループ会社でスマホアプリ決済大手のPayPayを含む決済を組み合わせれば、国内で巨大なバリューチェーンを構築できるため、これ以上の価値向上を生める相手はいないと主張する。組めば企業価値はそれなりに高くなるとの考えだ。
関係者は、LYが進めてきた過去の買収でも、予約サイトの一休は売上高がほぼ10倍、アパレル通販のZOZOは2倍超になったとの実績を示し、シナジー効果の創出に自信を示す。
EQTは5月にTOBを始め、度重なる価格引き上げと期間延長を経て、現在は3682円としている。対してベイン・LY陣営は、対抗提案した後、引き上げを重ねた。現在、大株主のKDDIの協力が得られれば3720円、得られなければ3700円とする条件を示し、いずれもEQTの提示価格を上回る。
英法律事務所フレッシュフィールズのパートナー、グレゴリー・サラテ氏は「特定の業界に関する深い知見や、対象企業の経営陣との関係を持つ事業会社と組んでいる場合、買収プロセスの初期段階で有利になる」と指摘する。対象企業との間で信頼関係を築きやすく、経営陣の理解も深まるためだという。
カーライルの渡辺雄介パートナーは、最近の上場企業案件ではオークション(入札)形式となることが多く、最終的には対象企業の事業価値をどれだけ高められるかが勝敗を左右すると指摘。企業の成長余地を大きく引き出せると判断できれば、その分だけ高い買収価格を提示することも可能になるため、事業会社との連携によって企業価値を一段と高められるのであれば、「一緒にやりましょう」という発想は以前にも増して広がっているとの見方を示した。
事業会社の姿勢も変わってきており、最近は成長を求めて積極的に競り合う姿勢に変化してきたとし、対抗TOBを出しやすい状況になってきていると指摘するファンドの関係者もみられた。
<「相対交渉のみ」に限界、連携には課題も>
事業会社が買収の担い手として存在感を高める中、証券会社でファンドに関わる部署の幹部は、アクティビストは株価向上が見込める割安な会社をターゲットにする一方で、事業会社は戦略的な意義があれば必ずしも株価が割安とは言えなくとも買収に動く可能性がある「最も恐ろしい相手」だという。
連携には課題もある。BofA証券の投資銀行部門共同部門長兼M&A共同責任者の間中章彦氏は、一般的に「コンソーシアムを組成した買収者は、単独買収者と比較して、意思決定や交渉のスピードという観点で売主から懸念を持たれやすい傾向にある」と話す。
以前は、ファンドが相対で交渉を進め、そのまま発表に至るケースも多かった。しかし最近は、プロセスに呼ばれなかった事業会社やファンドなどの買い手が後から対抗提案を出すケースも増えている。積極的なマーケット・チェックを行わない場合、後から対抗提案が出る可能性を完全には排除できなくなってきている。
昨今のM&A市場における競争環境を踏まえれば、会社側も買い手側も潜在的な競合提案の可能性を十分に吟味する必要性が増しており、事前にバンカーや弁護士を含めた対応が求められるようになったと、間中氏は語る。
マンダムの事例では、欧州投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズ系と創業家を含む経営陣が組んだMBO(経営陣が参加する買収)のTOB価格が、旧村上系株主の反発を受けて当初の1960円から引き上げられた。その過程で米投資ファンドのKKRが対抗提案を出し、MBO側は3105円に引き上げて決着した。
あるPEファンドの関係者は、相対交渉で少しでも安く買いたいという発想は理解できるとしつつ、TOBという仕組みである以上、一定の公正な価格を示す必要があると強調した。