悲運の古代エジプト王ツタンカーメンの壮麗な墓室の奥に、謎の「隠し部屋」があるというのは本当か? さまざまな調査の積み重ねで、改めて歴史的な大発見への期待が高まっている。

そこには2つの部屋が隠されていて、その1つはツタンカーメンの義母に当たる王妃ネフェルティティの墓である可能性が高い──そう主張する研究者もいる(ネフェルティティは絶世の美女とされ、1912年にエジプトのアマルナで立派な胸像が見つかり、大きな話題になった)。

この仮説を最初に提起したのはイギリスの古代エジプト学者ニコラス・リーブスで、2015年のことだ。大英博物館の元学芸員であるリーブスは、ツタンカーメンの墓室の北壁に「隠され」たヒエログリフ(象形文字)などを根拠に、その奥にネフェルティティが眠っている可能性を指摘していた。

そこへ今回、新たな調査結果が発表された。ツタンカーメンの墓室で行われた過去の考古学的・地球物理学的な調査データ(23年から24年にかけて行われたものを含む)を検証した論文で、9月半ばにイギリスの学術誌ネイチャーで発表された。

今回の調査を指揮したエジプトの考古学者マムドゥーフ・エルダマティによると、そこに複数の構造物が隠れている確率は高く、その壁に小さな穴を開けて探査カメラを送り込もうという計画がある。そしてエジプト政府は、その是非を数カ月以内に判断する見込みだという。

言うまでもないが、単なる臆測と検証可能な仮説は似て非なるものだ。しかし科学の歴史を振り返れば、考古学の分野を含め、世間の通説にあらがって己の信念を貫いた人たちが比類なき成果を上げてきたのは事実だ。逆に、世間の期待が大きすぎて小さなエビデンスを過大に評価するようだと道を誤る。ツタンカーメンの墓に隠し部屋がある可能性は五分五分で、どちらに転んでもおかしくない。

仮に隠し部屋があったとしても、それがネフェルティティの墓とは限らない。都合のよい結論を急がず、手元にあるエビデンスを客観的に評価する。それが科学者の役目だ。

エジプトのアマルナで発見されたネフェルティティの胸像
エジプトのアマルナで発見されたネフェルティティの胸像 CHRISTOPHE GATEAU-DPA-REUTERS

単なる仮説を「大発見」と言いくるめるのはメディアの習性だ。いい例がクレオパトラの墓が見つかったという説。アレクサンドリア近郊のタップオシリス・マグナ神殿で発見された地下トンネルの先にクレオパトラの墓があるというのだが、あの時代の都市には似たような水路がいくつもあったから、それだけで女王の墓につながる道と断定することはできない。

学者はもっと慎重であるべきだ。例えばギリシャの考古学者カリオペ・パパコスタは長年にわたりアレキサンダー大王の墓を探し続けていて、既に若き日の大王の似姿とおぼしき彫像などを発見している。だが、墓を見つけたとは一度も言っていない。断定するにはエビデンスが足りないと心得ているからだ。

ツタンカーメンの墓室をめぐる謎についても同じことが言える。考古学者のニコラス・リーブスが指摘したとおり、あれが王墓にしては小さすぎるのは事実。だから彼は、あそこにはもともと巨大な王墓があり、そこに早世したツタンカーメンの墓を付設したのではないかと考えた。

ツタンカーメンの墓室の壮麗な北壁に、封印された扉の痕跡が見られることも、この仮説を裏付ける証拠とされる。だが、壁を壊して確かめるわけにはいかない。まずは地球物理学的な手法を用いて、壁を傷つけずに、壁の向こうをのぞかねばならない。

そのため、過去の調査では低周波の地中探査レーダー(GPR)が用いられてきた。透過力では劣るが、より空間分解能の高い高周波GPRを使った調査もある。

微小重力の測定も行われてきた。地中にある物質の密度によって微妙に異なる重力場を測定し、そこに空間があるかどうかを推定する方法だ。

こうしたリモート調査で、壁の奥に何らかの空間が存在する可能性を示唆するデータは得られた。しかしどちらの方法でも、まだ「壁の奥に隠された大きな部屋」の動かぬ証拠は得られていない。

決定的なデータが得られないのは隠し部屋につながる通路が石ころなどで埋め戻されているせいだという議論もある。ありそうな話だが、それも単なる推測にすぎない。

さて、地球物理学的なリモート調査に限界があるとすれば、次なる科学的ステップとして論理的に考えられるのはただ一つ、直接的な検査だ。

エルダマティが提案しているように、北側の壁に小さな穴を開け、そこから超小型カメラを挿入して調べる。エジプト政府の許可が下りれば、隠し部屋の有無は単なる推論の段階からリアルな観察の段階に進める。

どんな結果が出るかは分からないが、それでもこれだけは言える。エルダマティらの発表した最新の論文は現時点で、ツタンカーメンの墓室に関する科学的な評価として最も包括的なものだ。10年来の「隠し部屋」説は、あれで立派な科学的仮説となった。

実に興味深く、実証可能で、実証を試みるに値する。さあ、実証の先に「発見」はあるのか。乞うご期待。
 

Reference

Reeves N. An Archaeo-Geophysical Review and Assessment of the Structure and Morphology of Tutankhamun's Tomb (KV 62) (The Burial of Nefertiti? IV) (2026). Occasional Paper 8, Amarna Royal Tombs Project. 2026. 
https://www.academia.edu/175580520/An_Archaeo_Geophysical_Review_and_Assessment_of_the_Structure_and_Morphology_of_Tutankhamuns_Tomb_KV_62_The_Burial_of_Nefertiti_IV_2026_

The Conversation

Jay Silverstein, Senior Lecturer in the Department of Chemistry and Forensics, Nottingham Trent University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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