Raphael Satter
[ワシントン 19日 ロイター] - あるサイバーセキュリティーの研究者はここ数週間、中国語を話すハッカーが農業機械メーカーのディア、家電メーカーのシャークニンジャ、エンジンメーカーのカミンズなど100社を超える企業ウェブサイトに侵入する様子を監視していた。
だが、ハッカー本人自ら、実際に手を動かした作業はほとんどなかった。
サイバーセキュリティー企業ノルフォージの脅威分析担当の主任研究者、スノレ・ファーゲルランド氏によると、ハッキング行為のほぼ全ては人工知能(AI)に委ねられており、標的サイトの探索から侵入まで、AIエージェントが数時間にわたり自律的に実行していたという。
19日の公開に先立ちロイターに提供された報告書の中でファーゲルランド氏は、ハッカーの間で人気のあるオープンソースのAI問題解決プラットフォーム「ケアン(Cairn)」上で誤ってアクセスできる状態になっていたものを検索する中で、冒頭の人物を含む複数の犯罪者を見つけたと明らかにした。同氏は10月2日頃から、ケアンが悪用されている事例を20件以上確認。これにより、サイバー犯罪者らがAIツールを使って攻撃を仕掛ける様子を、相手に気付かれることなく監視できたという。
同報告書は標的となった企業については明示していなかったが、ロイターはハッカーによるケアンの利用状況を独自に精査し、被害企業を特定した。
世界的に自律型AIの脅威への懸念が強まる中、ファーゲルランド氏は今回の事例について、市販のAIエージェントが人間の関与なしに複雑な侵入を一貫して実行できることを示す実例だと分析。単独犯の攻撃能力を飛躍的に高める可能性があると指摘し、「もはや新たな時代に入った」と語った。
ロイターは今回の侵入によって、どの程度のデータが実際に不正流出したかを確認できていない。
ディアはロイターに対し、本件を受けて「必要な是正措置」を講じたと述べ、「機密情報へのアクセスがあったという形跡はない」と説明した。シャークニンジャは、ハッキングの標的となったのは製品サポート情報のみを掲載する独立したサイトであり、脅威は封じ込められたとしている。カミンズは、「当社の第三者ベンダーの1社が運営するウェブサイトに対するサイバー攻撃の可能性について調査中である」と述べた。
このほか、中小企業2社も被害を認めた。ケアンのデータに記載されていた他の被害企業からは、問い合わせに対する回答は得られていない。
<わずかな指示で被害多発>
ファーゲルランド氏が監視したハッカーの1人は、大量のクレジットカード情報を盗み出した。別の1人は、AIエージェントを使って暗号資産取引所からの窃盗を試みた。
中でも最も活発だったのは、1人の中国語を使うハッカーだったという。この人物は9月25日以降、米国、カナダ、オーストラリア、日本の電子商取引(EC)サイトにAIエージェント群を投入。指示は極めて簡潔で、好みの侵入戦術を100字未満の中国語で概略的に記すのみだった。このAIエージェントは先週末までに、1200超のウェブサイトへの侵入を試みていた。侵入に成功した事例では、脆弱性を突き止めるための作業に23時間程度を要した。
ファーゲルランド氏は、中国新興「ディープシーク」と米アンソロピックの「クロードコード」を併用したとみられるこの作戦で、消費されたトークンは約5000ドル(約80万円)相当、侵入成功1件当たりでは約50ドルだったと推計した。
サイバーセキュリティー分野で約30年の経験を持つファーゲルランド氏によると、あるケースでは、大企業の公開アプリケーションに脆弱性を見つけられなかったAIエージェントが、デジタル記録を精査して関連インフラを特定。外部公開されていた管理画面を発見し、データ処理上の微細な欠陥を突き止めた。その後、数時間にわたる試行錯誤を経て、サーバーに不正な命令を実行させていたという。
「こうした手法を見つけ出すのは容易ではない。単純なツール頼みの、素人ハッカーの手口ではない」。ファーゲルランド氏は、今回AIエージェントが侵入に用いた手法の一部に感銘を受けたと明かした。
ケアンの開発者でSNS上では「le1xia0」を名乗る人物は、ロイターからのメッセージを受信したことは認めたものの、質問にすぐに回答することはなかった。この人物は最近のX(旧ツイッター)への投稿で、ケアンは「革新的なマルチエージェント型の仕組みであり、ハッキング攻撃を目的に設計したものではない」と説明。有害な攻撃に悪用されても、それは自身の意図ではないと主張した。
<監督も不要>
エージェント型のAIシステムが自律的に脆弱性を発見し、侵入を実行し、データを盗み出す能力は、世界中でますます懸念の種となっている。大手AI企業によって意図せず外部に放たれた暴走エージェントが、コンピューター研究施設のシステム上の制約を突破したり、政府サイトに侵入したり、無許可のソーシャルエンジニアリングを試みたりした例もある。
日本や韓国ではここ数週間、AIを利用するサイバー犯罪者の犯行とされるハッキング被害が相次ぎ、大きく報じられている。
AIエージェントはサイバー犯罪の地下世界で、ますます定番のツールになりつつある。
イスラエル企業ギャンビット・セキュリティは8月、ロシア語を話す恐喝グループがスペースXの「カーソルAI」ツールを悪用し、7組織に侵入したことを突き止めた。同社は9月、AIエージェントによる一連の攻撃を報告しており、その結果、25社のシステムが侵害され、少なくとも60万件のクレジットカード情報が盗まれたという。
サイバーインテリジェンス企業ビットサイトは先週、自律型エージェントの活用方法を巡る議論が犯罪者向けフォーラムで急増していると指摘した。
ファーゲルランド氏はこれまで、攻撃に使われるAIエージェントにも最低限、人間による監督が必要だと考えていた。しかし、技術はすでにその段階を超えたことが明らかだとし、「この分野の発展は驚異的だ」と語った。