Tamiyuki Kihara
[東京 20日 ロイター] - 高市早苗政権が発足して21日で1年となる。外交面で特に厳しさを増したのが日中関係だ。昨年11月、高市氏が国会で台湾有事が日本の存立危機事態になり得ると発言して以降、両国関係に改善の兆しは見えない。キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)上席研究員兼中国研究センター長の峯村健司氏に、高市氏の対中外交への評価と課題、そして政権2年目の成否を左右する外交戦略上のポイントを聞いた。
──高市外交の対中政策をどう評価しているか。
高市首相は中国に対して「対話の扉は開いている」と言うが、扉を開けるだけでは政策とは言えない。安倍晋三元首相は中国に厳しい立場を取る一方で、当時の二階俊博幹事長や今井尚哉首相秘書官らを通じて中国との対話を重ね、「飴」と「鞭」の戦略を描いていた。安倍氏が私に「二階さんがいるからこそ習近平国家主席を堂々と批判できる」と言っていたのを思い出す。それに比べて、高市政権は誰がどのような対中戦略を描いているのかがまったく見えない。
──最近の中国の対日姿勢に変化は見えないか。
中国が高市氏の存立危機事態発言について「撤回」ではなく「是正」を求めると発信し始めたのは5月のことだ。そのタイミングで中国の対日戦略は大きく変わった。5月以前は習氏の指示で対日強硬政策が進められ、デュアルユース、軍民融合品の輸出規制や訪日旅行の自粛が打ち出された。高市政権を早期に終わらせるための政策だった。しかし、支持率は思うように下がらず、2月の衆院選で自民党は大勝した。また、日米同盟にくさびを打とうと、5月の北京での米中首脳会談で習氏は高市氏を名指しで批判し、「新型軍国主義」だとのレッテル貼りを試みた。ところが、トランプ氏は直後に大統領専用機エアフォース・ワンから高市氏に電話をして内容を報告した。習氏は、戦略を変えなければならないと感じたことだろう。
──中国の戦略はどう変わったのか。
5月から、中国は「統一戦線工作」に打って出た。高市氏とその他の勢力を分け、その他を中国に取り込むことで高市氏を孤立させる戦略だ。9月に岩屋毅前外相と同行した日系企業を厚遇したのもその一環だ。岩屋氏と何立峰副首相との会談の同席者に聞いたところ、何氏は満面の笑みで「経済交流は重要だ」と語ったという。前日の会談で厳しい姿勢を示した王毅外相を「鞭」、何氏を「飴」として使い分けた証左だ。その後の会見で中国が高市氏を「日本の首相」という肩書も付けずに呼び捨てにしたように、中国の対日強硬姿勢はむしろ強まっているのだ。
──高市政権はどう動くべきか。
私は中国に安易に歩み寄るべきだとは思わない。存立危機事態発言も撤回する必要はない。一方で、しっかりとした日本の対中戦略が求められる。中国経済が悪化する現状にあって、中国では日本企業の重要性や価値が再認識されている。日本には半導体関連技術などの強みもある。こうしたアセットをうまく駆使した戦略が必要だ。
──11月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)が控えている。
APECで中国は、「日本は新型軍国主義だ」とのキャンペーンを各国に対して展開する可能性がある。中国が米中ロの首脳会談を模索しているのも、同じ文脈だ。日本政府はこうした中国の動きに警戒感を強める必要がある。中国の動きを封じるためにも、日米関係の一層の強化が必要だ。日米がしっかり連携できていれば、中国のキャンペーンの試みは成功しない。もっとも、トランプ氏に頼むだけでは限界がある。日本政府としてしっかりとした対中戦略を描けるのかどうかが、高市政権2年目の成否を左右する。
(聞き手・鬼原民幸 編集:橋本浩)
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