黒い目出し帽で顔を隠した男たちが、ホテルの一室に次々となだれ込む。黒い上着の背中にはロシア語でFSBの文字。ロシア連邦保安局だ。

男たちは3人がかりで、部屋にいた男性を床に押し倒し、うつぶせにして腕をねじ上げると、手錠をかけた。

10月13日にロシアの極東サハリン州ユジノサハリンスクで起きた、北海道新聞の記者イマイ・ユウキ(34)の逮捕劇は、きっちり撮影され、編集され、国営タス通信によって世界に配信された。

動画には、イマイのものとされるスーツケースの中身が映っている。山のような私物の中には、ロシア人ノーベル賞受賞作家イワン・ブーニンの書籍も埋もれている。

一番上には黄色い封筒が無造作に置かれており、そこから半分のぞいた書類がアップになる。ヘッダーに「部外秘」の文字が見えるが、それ以外はモザイクがかかっていて、何が書かれているかは分からない。スパイ容疑だと告げられたイマイが、「どういう意味ですか」と反応する声も聞こえる。

数時間のうちにイマイは飛行機でモスクワに移送され、市内の裁判所でロシアの防衛情報を集めた容疑で2カ月の勾留が認められ、レフォルトボ刑務所(未決勾留者の拘置所の機能も持つ)に収容された。

こうしてイマイは、FSBにスパイ容疑をかけられた何百人ものロシア人や外国人の1人になった。

イマイがその日のうちにモスクワの法廷で勾留期間が決定される場面 RUSSIAN FEDERAL SECURITY SERVICE-TASS-ZUMA/AFLO

このような容疑をかけられた人たちの弁護を数多く担ってきた弁護士のイワン・パブロフは、イマイの逮捕も、モザイクのかかった書類も、なんら驚きではないと語る。

「日本人記者の逮捕は、政治的な作戦の一部だ。ロシア政府は証拠を示さずに、外国人をスパイ容疑で拘束して、(外国で拘束されているロシア人を取り戻すための)交換要員にしている」と、パブロフは15日に本誌に語った。

「問題となったのはイマイの取材活動だが、記者とは情報や資料を集める仕事だ。スーツケースに入っていたあの紙に何が書かれていたかは、永遠に明らかにはならないだろう。ただ、1つだけはっきりしているのは、あれはサハリンのFSB職員ではなく、モスクワから送り込まれたFSBの捜査官であることだ」

つまりイマイが逮捕された背景には地政学的な理由がある。実際、2023年に米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のエバン・ゲルシュコビッチ記者が拘束されたときと共通点は多い。

ゲルシュコビッチも機密文書を入手した容疑で拘束され、禁錮16年を言い渡されたが、2024年に複数国が関与する囚人交換により解放された。この交換では、ドイツ当局に拘束されていたFSBの有名な暗殺犯も解放された。

30年前にあった日本絡みのスパイ事件
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