<大国間対立の激化は、テロ対策の基盤である国際的な情報共有や協力を弱め、新たなリスクを生んでいる。敵対国間でも共通の脅威に対して協力を維持する意志が、これからのテロ対策には不可欠>
大国間競争が激しくなる今日、国際テロ対策は新たな難題に直面するリスクがある。テロ対策は、テロ組織を軍事的に攻撃するだけではない。各国の情報機関、警察、金融当局、国境管理機関などが情報を共有し、国境を越える脅威を追跡する国際的な協力が不可欠である。
しかし、大国間対立が深まれば、各国の相互不信が強まり、こうした情報共有や捜査協力が停滞する可能性がある。つまり、大国間対立は、テロ対策を支える「国際的な繋がり」そのものを弱めるリスクを孕んでいる。
9・11以降、テロ対策では情報共有が重視されるようになった。テロ組織の指導者を特定する情報、外国人戦闘員の移動、資金供与、武器調達、通信、オンライン上の過激化などは、一つの国だけでは把握できない。
国際テロ組織は国境をまたいで活動するため、ある国の情報が別の国の捜査や警戒に結び付いて初めて意味を持つ。国連安全保障理事会決議1373などを通じ、各国はテロ資金の遮断や情報交換を強化してきた。こうした枠組みは、テロ組織が分散化し、小規模な細胞や個人による攻撃が増えるほど重要になる。
ところが、現在の国際情勢では、テロ対策と大国間競争を切り離すことが難しくなっている。典型例がロシアによるウクライナ侵攻である。ロシアと欧米の対立が激化するなか、双方の情報機関は相手国を主要な安全保障上の脅威として監視するようになった。
ロシア側では、ウクライナや欧米に関連する破壊工作などへの警戒が強まり、国内の治安機関に大きな負荷が生じている。
その一方で、イスラム過激派の動向を十分に監視できなくなるリスクもある。大国間対立によって情報機関の人的・技術的資源が国家間のスパイ活動や戦争関連の脅威に集中すれば、テロ対策に必要な長期的監視の余力が削られる可能性がある。