Hannah Lang
[7日 ロイター] - 米暗号資産(仮想通貨)業界は、11月の中間選挙を3週間後に控えて難しい判断を迫られている。先月に上院で野党民主党によって重要法案の成立を阻止されたことで、民主党に報復するべきか、それとも長年かけて築いてきた超党派の関係を維持するべきかというジレンマに直面しているからだ。
暗号資産業界は今回および前回の選挙サイクルで、民主・共和両党の暗号資産推進派候補をほぼ均等に支援するため、総額3億ドルを超える資金を投じてきた。その狙いは、米国の暗号資産企業が明確な法的基盤を得て事業を発展させられるような法整備を実現することにあった。
この戦略は昨年、米ドル連動型ステーブルコインを後押しする新法の成立という成果を生んだ。しかし先月には、上院の民主党議員全員と一部共和党議員が「クラリティー法」の審議入りに反対票を投じたことで、大きな打撃を受けた。同法は、業界が長年求めてきた法的な枠組みの明確性を提供するとされていた。
法案協議ではトランプ大統領自身が関与する暗号資産事業が争点となり、民主党は公職者による暗号資産取引への規制強化を要求。これらの多くが反映されたにもかかわらず、最終的には法案に反対票を投じた。この対応は業界幹部らの怒りを招き、複数の専門家は暗号資産問題を従来以上に党派色の強いテーマへと変えたと分析した。
今回の中間選挙で改選を迎える民主党上院議員は9人で、その中には業界がこれまで協力的だとみていた議員も含まれている。世論調査では民主党がわずかに優勢とみられており、4人の関係者によると、業界内では超党派戦略を維持するべきか、それともクラリティー法を支持した共和党を優先的に支援するべきかを巡る議論が続いている。
一部の業界幹部は、民主党が上院多数派となれば暗号資産関連法案が成立する公算が乏しくなりそうだが、クラリティー法への反対を争点化し過ぎれば、長年築いてきた関係を損ない、来年以降に権力を握る可能性のある議員たちとの距離が遠くなりかねないと警告する。
暗号資産取引会社ウィンターミュートの政策責任者を務めるロン・ハモンド氏は「非常に難しいかじ取りだ」と述べ、業界の大口支援者たちは慎重に対応していると語った。
<反対派攻撃の過去>
コインベースやリップルなどが支援する暗号資産系スーパーPAC(政治活動委員会)「フェアシェイク」は、年初時点で1億9300万ドルの資金を保有していた。同団体は今週、民主・共和両党にまたがる下院候補32人への支持を表明したが、上院選での方針はまだ明らかにしていない。中間選挙に向けた一連の57の選挙戦に資金を投じ、その多くで勝利を収めている。
フェアシェイクの報道担当者ジェフ・ベッター氏は「フェアシェイクは一貫して争点重視の組織であり、米国のイノベーションを支持する親暗号資産候補を、党派を問わず支援している」と述べた。
暗号資産業界のPACはこれまでも反対派への攻撃をためらわなかった。2024年には、フェアシェイクが約4000万ドルを投じ、業界の政治的影響力を批判していた中西部オハイオ州選出の民主党上院議員シェロッド・ブラウン氏を落選に追い込んだ。そして今回も同PACは、ブラウン氏の上院復帰を阻止するため3000万ドルを投じている。
また暗号資産起業家キャメロン・ウィンクルボス氏とタイラー・ウィンクルボス氏が支援するスーパーPAC「デジタル・フリーダム・ファンド」も、ブラウン氏に反対し、クラリティー法に賛成票を投じた共和党現職ジョン・ハステッド上院議員を支援するため300万ドルを投入していることが、連邦選挙委員会への届け出から明らかになっている。
さらに同じ中西部アイオワ州の上院空席を争う選挙でも40万ドルを投入し、親暗号資産派の共和党アシュリー・ヒンソン氏を支援する一方で、民主党候補への反対活動を行っている。
ウィンクルボス兄弟やヒンソン氏の広報担当者はコメント要請に応じず、リップルもコメントを控えた。
ブラウン陣営はハステッド氏について「金で動く政治家だ」と批判。一方ハステッド陣営は、ブラウン氏は「自身の悲惨な実績がテレビ広告で流されることを恐れている」と反論した。
専門家の話では、これまで業界の積極的な政治支出は、候補者たちに業界と対立することへの警戒感を抱かせてきた。しかし業界幹部の中には、とりわけ現職議員を標的にする戦略には大きなリスクがあると懸念する声もある。実際多くの関係者は、暗号資産が依然として超党派の課題であり得ると考えており、関係を壊すことなく不満を示す方法を模索すべきだとしている。
例えば今回改選を迎える東部ニュージャージー州のコリー・ブッカー上院議員や南部バージニア州のマーク・ワーナー上院議員は、業界が重要な味方とみなしている有力民主党議員だ。両氏は暗号資産関連法案を概ね支持してきたが、公職者の暗号資産取引規制が不十分だとして最終的にはクラリティー法に反対した。
ワーナー氏は上院銀行委員会、ブッカー氏は上院農業委員会に所属し、両委員会は共同で同法案を起草した。2人とも比較的安全圏の選挙戦を戦っているため、攻撃しても逆効果になりかねないと業界関係者はみている。
また上院で民主党が主導権を握れば、委員会運営を通じてトランプ氏と関係の深い暗号資産企業を調査する可能性もある。最近の世論調査でハステッド氏をわずかに上回っているブラウン氏が勝利した場合、銀行委員会トップに返り咲く可能性もあり、業界にとっては皮肉な展開になり得る。
匿名を条件に取材に応じた業界幹部の1人は「民主党を攻撃しても、それほど大きな成果は得られなかった」と語った。最終的に業界は党派を問わずクラリティー法支持者への支援に回帰するだろうとの予想も聞かれる。
暗号資産企業GSRの法務・戦略責任者を務めるジョシュ・リースマン氏は「業界はいったん傷を癒やした後、クラリティー法を支持した政治家たちへの支援を再び積極的に進めることになるだろう」と述べた。
コインベースが支援する非営利団体「スタンド・ウィズ・クリプト」は、数十人の候補者を支持しており、一部選挙区では広告活動も展開している。最近発表した支持候補の多くは、民主・共和両党を問わずクラリティー法に賛成票を投じた下院・上院議員だ。メーソン・リノー事務局長は「われわれには選挙結果を左右する、あるいは少なくとも再選を目指す親暗号資産議員たちを力強く後押しするだけの影響力がある」と強調した。