Brenda Goh Ju-min Park Eduardo Baptista

[ソウル/北京 11日 ロイター] - カフェバー、ウオーターパーク、ショッピング──。日常生活の楽しみやレジャーとは縁遠いと思われてきた北朝鮮で今、思いがけない「娯楽」ブームが広がっている。

自身もぜいたく好きとして知られる金正恩朝鮮労働党総書記が、国民に資産を使わせる新たな仕組みの構築を進めている。

中国の税関データがその実態を物語っている。北朝鮮のマッサージ機器の輸入量は、過去10年間で40倍に急増。ランニングマシンの輸入量は600%超も跳ね上がった。ピアノのほか、遊園地向けの大型遊具までもが、北朝鮮に大量に流入しているという。

消費拡大の動きは、各地で次々と新設される高級商業施設やビーチリゾート、スキーリゾートにも広がっている。ロイターは貿易統計や国営メディア報道を分析したほか、最近北朝鮮を訪れた5人と脱北者2人を取材し、その実態を探った。

単に、日ごろのちょっとしたぜいたくを国民が享受できるようにするだけの政策ではない、と専門家らは指摘する。金氏は個人消費を国営の娯楽・小売網に誘導することで、商取引に対する国家統制を強化し、闇市場を締め付けるとともに、核保有国である北朝鮮の新たな収入源と成長の原動力を確保しようとしているという。

ソウルのシンクタンク「現代経済研究院」のカン・ソンヒョン研究員は、この戦略について、市場に集中する生産・流通・資金の流れを国家管理下の公式経済圏へ取り込む狙いがあると話す。

金氏の兵器開発を阻むことを目的に、国連は現在も北朝鮮に高級品やエネルギー、鉱物取引などを対象とする厳しい制裁を科しているものの、国内では消費の場が増え続けている。 韓国中銀は7月、北朝鮮経済が2025年に3.5%成長し、3年連続で成長率が3%を超えたと発表した。

この目覚ましい変化は、国外からの注目を集めている。5月に首都・平壌を訪問したシンガポールのバラクリシュナン外相は、同市の進歩を「驚くべきものだ」と評し、東アジアの「どの近代都市にも劣らない」と述べた。

ロイターが検証したソーシャルメディア上の映像には、昨年オープンした平壌の高級ショッピングモール「楽浪愛国金剛館」で、市民がカプチーノを飲んだり、家電製品を眺めたりする様子が映っていた。国営メディアは、開業2年目のビアレストラン「火星大同江ビール店」で、疲れた喉を潤す一杯が楽しめると紹介した。

4月には金氏が娘のジュエ氏と共に、新しいペットショップを視察。子犬や子猫と戯れる様子も確認されている。

韓国の研究者らは、平壌でのレジャー施設建設ラッシュには、暗号資産(仮想通貨)の窃盗や、ロシア軍支援のためのウクライナへの兵士派遣、石炭やその他の鉱物の輸出などで得た資金が投入されているとみている。北朝鮮政府が支援するハッカー集団は暗号資産の窃取に関与しているとして、米国など諸外国の当局者や、サイバーセキュリティーの専門家らから度々指摘を受けている。

韓国政府系シンクタンクの国家安保戦略研究院は、北朝鮮が23年8月から25年12月にかけ、ロシアのウクライナ侵攻への関与を通じて最大144億ドル(約2兆2370億円)を得たと推定している。

流入した資金は北朝鮮経済に少しずつ浸透し、非公式な取引によって利益を上げる人も増えつつある。そうして蓄積された富は同時に、新たな問題も生んでいる。ウィーン大学の東アジア経済・社会学教授ルーディガー・フランク氏は「貯蓄はあるが、それを使う場所がない約800万人の中産階級が存在する」と分析する。

これに金氏が出した答えこそが「消費」だとフランク氏は言う。国民の不満を和らげ、コメなど生活必需品の価格高騰を招き得る資金の流れを抑制し、内需による経済成長を促す効果があると説明した。

専門家らは経済状況の好転により、北朝鮮は制裁緩和を求める必要性が薄れ、米国との核交渉を再開する動機も弱まっているとの見方を示す。トランプ大統領は金氏との再会談に意欲を示している。北京の北朝鮮大使館は、国内消費促進策に関する質問に回答しなかった。ロシア外務省と米ホワイトハウスもコメントを控えた。

中国外務省は、国連安保理決議を履行しつつ北朝鮮との貿易・協力を続けているとして、制裁が国民の生活を損なうべきではないと強調した。

<レジャー施設が拡大>

ロイターが北朝鮮国営メディアの記事1200本以上を分析したところ、観光施設の新設や改修に伴い、観光やレジャー、カルチャー関連の報道は22年以降増加している。25年夏にオープンした元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区、中国国境近くの三池淵市で12月に開業した高級ホテル5軒、近隣で建設中のスキーリゾート、北東部のウオーターパークや完成前の乗馬クラブなどはその一例だ。

国営テレビは8月の猛暑を伝えるニュースで、元山のビーチリゾートが国内の海水浴客であふれかえる映像を流した。旅行会社ヤング・パイオニア・ツアーズの共同創業者ローワン・ビアード氏は「現地の知人が家族旅行で元山を訪れたが、ホテルは既に満室で、数人でツインルームをシェアするしかなかったそうだ」と語った。平壌の中国大使館は大使訪問に関する2月の投稿で、元山葛麻海岸観光地区には25年後半だけで、国内から30万人以上が訪れたと明かしている。

「崔」という名字だけを明かして取材に応じた中国人実業家の話では、北東部の羅先(ラソン)市でもサウナやプール、ゲームセンター、スポーツ施設などが相次いで開設されているという。

国営メディアによると、金氏は地域開発計画の一環として、図書館、レストラン、映画館を備えたレジャー複合施設を全国で建設しており、少なくとも24カ所が完成済み、または建設段階にある。

ただ、最も豪華な施設は平壌に集中している。国営メディアは新しい住宅地区についても報道。そこにはゲームセンターや自動車販売店のほか、サケのハラミやフォアグラを使ったハンバーガーを提供するバーベキューレストランもあるという。

<金氏が整備する「利便性」>

最近北朝鮮を訪れた3人はロイターに、国内で購入できる商品の種類も増えていると話した。

ロイターが検証したソーシャルメディア上の映像によると、23年に開業した高級商業施設「柳京(リュギョン)ゴールデンプラザ」では、ロレックス、オメガ、エルブランなどの時計メーカーのロゴが掲げられた店舗や、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の看板がかかった家電量販店も確認されている。

オメガとエルブランはロイターに対し、北朝鮮には正規の小売店や販売代理店を置いていないと説明。ロレックスとファーウェイはコメントを控えた。

5月に平壌を訪れた旅行会社創業者のビアード氏の話と、米シンクタンク、スティムソン・センターの分析プロジェクト「NKテックラボ」が公開した画像によると、北朝鮮国内では中国のアリペイに似た決済システムを使ったオンラインショッピングも盛んだという。ビアード氏は、モバイルアプリでの決済が「至る所で」かつ「あらゆる商品やサービスの支払いに」利用されていると語った。

貿易統計からは娯楽振興策が個人向けの商品だけでなく、国家主導のインフラ整備にも及んでいることが分かる。中国の税関統計によるとピアノや腕時計に加え、メリーゴーラウンド、ジェットコースター、ウオータースライダーといった遊園地設備についても、北朝鮮向け輸出が急増している。25年1月から26年7月には、北朝鮮が中国から大量の「バンパーカー」を輸入。遊園地にあるような、互いにぶつかり合って楽しむカート型の遊具だが、その総額は2万ドル超、重量も3トンを超えるという。

中国との貿易は新型コロナ禍後、全般的に回復した。この中国製品の輸入拡大を追い風に、平壌では自動車文化も活気づいている。

<「時間稼ぎ」>

北朝鮮では1990年代の飢饉(ききん)以降、国が国民に十分な物資を供給できなかったことから、非公式の民間市場が発展した。当局は今世紀初め、こうした闇市場の閉鎖を試みたものの、代替となる国家の流通網が整っていなかったため失敗に終わったと、韓国「平和経済研究所」のチョン・チャンヒョン所長は言う。

同氏は金氏が今まさに、消費戦略でその試みを再び進めつつあると指摘する。民間市場に対抗し、最終的にはその基盤を揺るがすことのできる国家の商業インフラを構築する狙いだ。

決済・配達アプリが普及すれば、個人の支出を当局が監視することも可能になると、複数の専門家は言う。北朝鮮政府は23年、すべての銀行と店舗に電子決済への対応を義務づける法律を制定した。

他方、消費ブームの恩恵は、国民全体に及んでいるわけではないという。昨年、韓国に亡命するまで平壌で運転手をしていたヤン・イルチョルさんは、自分のような一般市民には新しいレストランやレジャー施設を利用する機会など、ほとんどなかったと話した。平壌では携帯電話が広く普及しているものの、多くの国民は政府を信用しておらず、現金での支払いを好んでいるとヤンさんは言う。

ウィーン大のフランク氏は、国内消費を押し上げる金氏の政策は、少なくとも現時点では効果を上げているようだと指摘した。「消費拡大で時間を稼ぐことはできる。ただ、国民の忠誠心まで得られるわけではない」

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